- 作者: 寺脇研,鈴木寛
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/03/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本から学んだのは,次の点です.
- 従来から自分が取り組んできたとして,自分の過去の実績や,そう主張してきたことに言及しつつ,アピールすること.
- 過去の(本やテレビでよく知られているが,現在それに立ち会ったことがある人がいないような)出来事を持ち出し,それに自分の姿を合わせること.
- 過去の類似する(良くないと思われている)ものとの違いを,1点でいいから明らかにし,それを強調すること.自分なりに説明を終えれば,次の話題に進むこと.
- 多いことを示すには,実数(「8.5万人」「500校」など)を用いること.
- 少いことを示すには,割合(「1割」「0.5%」など)を用い,前に「たった」をつけること.
- 理解/周知が不十分であることを明示し,広めている努力を伝えること.
- 「AかBか?」の二項対立にたいして,そのような問題のとらえ方が間違い/ナンセンスと主張し,別の解Cを提示すること.
- タイトルと序文で,煽ること.タイトルに掲げた問題意識は,終章でとくに振り返る必要がないこと.
- 自分が提案者/考案者/提唱者であることを強調すること.そしてその実現のために必要な要素を整理すること.必要とする要素の中には,読者/聞き手を含む「人々(の協力)」が含まれていること.
この本の中心にあるのは,2名の著者の「対論」*1です.
全国学力テスト関連の話題が書かれていたので,購入しました.「22. 学力テストの先にあるもの」(pp.184-191)で論じられていて,結論は次のとおり.
寺脇 (略)
学力調査についてのお話はよくわかりました.要は,これまでの悉皆での学力調査は意味がないから,抽出の調査とするのも過渡的なことで,今後,子どもたちの個別的な学習活動を支援できる学力調査に変えていくということですね.
(p.191)
その実現の手段は,「クラウドコンピューティング」で,使用イメージがp.186に載っています*2.もし本気で取り組んでいるなら,予算の話くらいは,世の中で出てそうな気がするのですが,聞いたことがありません.
google:クラウド+文部科学省で検索して,見つかったのが
です.しかしここに出現する「クラウド」は,科学技術関連の話ですし,説明をしているのは,鈴木副大臣ではなく中川副大臣です.
ここから,文部科学省サイト内にある,鈴木寛 文部科学副大臣の会見を見てみました.全部読むのは無理で,キーワードから,関係のありそうなのを拾い上げました.
副大臣)学力調査、体力調査については、改めて事業仕分けの結果、あるいはそこでの議論を精査をして、もちろん参考にすべきは参考にしていきたいというふうに思っております。しかしながら、学力調査については皆様方も御承知のように都道府県を中心に議論を重ねて参りました。その上で概算要求については40パーセントという方向性を出させていただきました。これから最終の予算編成ということでありますが、改めて事業仕分けの結果について都道府県を始めとする教育現場の皆様方がどのような御意見を持っておられるのかということは伺ってみたいなと。その上で、最終的な予算編成過程の中で判断をしていきたいというふうに考えています。
鈴木副大臣記者会見録(11月26日):文部科学省
「都道府県を始めとする教育現場の皆様方」というのがなかなか周到で,教員と勘違いしそうですが,そうは言っていないし,本と照らし合わせて検討する限り,現職教員から意見をもらったとは受け取れません.教員ではなければ誰かというと,判然としません.教育委員会でしょうか.知事・市町村長でしょうか.議会でしょうか.そういえば少なくない数の議会が,悉皆継続を求める意見書を出していましたね.予算の事情で悉皆とはいたらなかったものの,自治体や学校が負担(金銭に限らず)することで,悉皆でテストを受ける環境*3ができたのは,報道されているとおりです.
もう少し調べたら,誰なのか,書かれていました.知事と教育長,都道府県レベルですね.
記者)学力テストに関してですけれども、40パーセント抽出率ということですが、これは、これまで言われているとおり、各県の詳細を比較するというよりはカテゴライズするという比較の上で、このような判断だということでしたけれども、この際ですね、各県の比較ということではなくて、子どもの全体的な学力の傾向というものを見るためであれば、もう少し低い抽出率も考えられるというようなデータもあるのですけれども、そういう前提を変えて抽出率を下げていくというお考えというのは、現段階ではあるのでしょうか。
鈴木副大臣会見録(11月5日):文部科学省
副大臣)前提を変えるとですね、半数ぐらいのというか、私も47都道府県の全部の知事さん、教育長さんとお話をしたわけではありませんが、今までお話をさせていただいた方で言うと、大体半々ぐらいになるんですけれども、その半々ぐらいの方々の御要望というのはですね、我が県が大体全国から見てどれぐらいの水準にあるのかということはやっぱり把握したいと。それを基に、いろいろな改善、施策をこれまでも講じてきたと。このことは引き続きできるようにしていただきたいという声だと思います。先ほどお話があった麻生知事のおっしゃりたいこともこういうことだというふうに思いますので、その声にこたえていくためにはやはり4割という抽出率が妥当だという判断でございます。ですから6パーセントとかにしてしまうとですね、そういう全県の半分ないし3分の1ぐらいの県の声にこたえづらくなるということだと思います。
それにしても,「6パーセント」は事業仕分けからですが,「4割」「半分ないし3分の1」について,まったくその理路が分かりません.「ああ,なるほど,そういうロジックか」と思わせてくれる根拠が見当たりません.それは統計学に基づいていなくてもいいのですが.
ところで,この本で力を入れているのは,子ども手当のほうです.これも副大臣会見と照らし合わせて読んでみると,「まあごくろうさんなことですねえ」くらいは言っても差し支えないのかなと思います.
全体として,コンクリートが「消えた」ことは了解ですが,それが「子どもたち」に直結しておらず,うまくつながるようにするには何か不十分だよなあといったところです.
もし本日のエントリを,著者様がご覧になって,お問い合わせがあれば(光栄ではありますが)おそらくお互いの理解にはなりにくいと思われますので,先に明示しておきます.私は「話せば分かる」を支持できません.「話せば,分かった気になる」なら納得です.「対話を通じた理解を好む」人がいることは承知した上で,「対話だけでなく,出版物,インターネット上の情報など,さまざまな情報を照らし合わせてその輪郭を形成していく」のが,私のスタンスです.