わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

柔道師範,DDRer,父親との対話

(1)

「パパ,教えてほしいんだけど…」
  「ちょっと早く帰ってきたら,お帰りも言わずに,教えてほしいんだけど,か.まあいいだろ.何だ?」
「テストのこの問題ね」
  「ほお…あれ,大きくバツがついてるなあ」
「ね.これ,マルじゃないの?」
  「どれどれ….うーん,ちょっと気になるなあ」
「そう,ママもね,パパに聞いてごらんって言うの」
  「そっか.ちょっと厄介な問題かもしれないんでね」
「そうなの?」
  「ちょっと調べ物をしたい.で,すまんがかわりに,歩いて隣町の柔道教室まで行って,ゴウおじちゃんにお願いしていた物を,取ってきてくれないか」
「えーっ」
  「行ってくれないかなあ」
「あそこの教室,ちょっとこわい…」
  「かけ声がこわいんか? 柔道場に入らなくていいんだよ.ゴウおじちゃんはこわそうに見えても,胴着を脱いだら優しいおじちゃんなんだから,こわくないって.ちょっと行って来てくれ」
「…はあい」

(2)

「ごめん,くださ…」
  「やあ,こんにちはナオコちゃん.大きなったね!」
「こんにちは」
  「パパからさっき電話があったよ.話は聞いてる.これな」
「あ,ありがとうございます」
  「まあ何だ,入りたまえ」
「え,そんな…」
  「世間話をしてやってくれと,パパから聞いてるんだ.ジュースもあるよ」
 
  「何や,テストでペケをもらったんかいな」
「うん,そうなの」
  「そんなん,おっちゃんやったら,数え切れんほどなんやけどなあ.兄貴…あいや,ナオコちゃんのパパは賢おて,百点ばっかしやったけどな」
「でね」
  「それでな.テストでペケやったんをマルにする方法は,おっちゃん知らんからな」
「じゃあ…」
  「まあ,先生の言うことは,聞いた方がいいよ」
「あのね,5×3も,3×5も,答えが同じなんだから,どっちでもいいと思うの」
  「ふーん,どっちでもいい,か…」
「同じでしょ?」
  「まあ,勉強のことはほっっとんど忘れたおっちゃんでも,ごさんじゅうご,さんごじゅうごで同じになるのは,分かる」
「ね!」
  「でも,だからどっちでもいいとは思わないなあ」
「そうなの?」
  「今日,子どもに叱ってな.黙想の前に,みんなを前に説教をしたんや」
「もくとう??」
  「もくとうじゃなくて,もくそう.練習おしまいというときに,みんな正座して,30秒ほど何も言わず,今日のことを自分で反省するのが,黙想っていうんだ.ちなみに目は薄目」
「へえ」
  「何やっちゅうとな…おっちゃんと乱取りをする子でな.6年生の子で,教室内では一,二を争う,強い子なんやが」
「強いの?」
  「乱取りでは何回もいい技をかけてくるんで,投げられてやるけどね」
「ふうん」
  「それで,打ち込みでも乱取りでも,最初にするのは『お願いします』だ.それはするんだけど…」
「だけど?」
  「頭を上げたあと,その子が先に出す足が,おっちゃんと同じ方向だったんだ」
「おなじほうこう??」
  「礼をしたら,まず左足を斜め前に,それから右足を斜め前に出して,自然本体になる.試合にしても乱取りにしても,それから開始になる」
「それで?」
  「同じ方向ってのはな,その子が頭を上げてから,先に右足を前に出したんだ」
「右がさき,左があとってこと?」
  「そうだ.それで厳しく叱った.今その怒鳴り方をするわけにいかないけど,『左右反対,基本やぞ』って」
「基本なの?」
  「ああ.そこは基本やな.で,稽古おしまいのときに,子どもらみんなに言ったのやが…」
「何て?」
  「ここに2人の柔道選手がおる.実力は甲乙つけがたい」
「(こうおつ? まあいいや,聞いとこ…)」
  「ところが,その2人があるとき,胴着を着て先生に教えを乞うたときに,一人目は頭を下げてから自然と左足,右足の順.もう一人が右足,左足の順だった」
「んん?」
  「教える先生は,どちらを教えたがると思う?」
「やっぱり,一人目の人かなあ」
  「そうだ.どうしてか,分かるか?」
「自然だから」
  「いやそうではない.ちょっとした違いに見えるけど,礼儀が身についているからだ.そして礼儀があるということは,教えを素直に吸収し,もっと強くなれるだろうってな」
「ふーん.で,もう一人の人はどうなったの?」
  「どうなったって,これ,たとえ話だからなあ」
「なんだあ」
  「…さて,暗くならないうちに,帰るか」
「はあい.どうも,ありがとうございました.おじゃましました」
  「はい,礼儀正しいね.気をつけて帰るんだよ」

(3)

  「あ! ナオコちゃん!?」
「は,はいっ…あ,フミオ兄ちゃん」
  「久しぶりだね」
「はい,こんにちは」
  「堅くなんなくていいよ.うちの親父のところに行ってたのかな」
「うん,そう」
  「これから帰るんだね」
「あのねフミオ兄ちゃん,聞いてほしいんだけど」
  「よし,じゃあ聞こうか」
 
  「悩みは分かった.まあ,親父の言うことは,当てにしないほうがいいぜ.親父も,兄ちゃんも,勉強はさっぱりだからな」
「でもね,何かあると思うの.パパが調べ物をするからって,ゴウおじちゃんのところへ一人で行かせたり,フミオ兄ちゃんに出会ったり」
  「(この子,鋭いなあ…)そうだなあ.じゃあその悩みを解決できるか分かんないけど,ちょっと兄ちゃんの行くところに,ついて来てくれるかな?」
「どこ?」
  「ゲームセンターだよ.ここ,ここ.まだ,子どもがダメな時間じゃないね.まあプレイするのも1回だけだ」
 
  「どうだった? 兄ちゃんのプレイ」
「なんかかっこよかった」
  「来週,パフォーマー大会があって,練習中なんだ」
「でぃーでぃーあーる,よね?」
  「そうだ.DDRはたしか,去年,ナオコちゃんが小学校に入ってすぐくらいに,1回やってみるかって,俺と親父が連れてきて,踏ませたんだよな」
「そう! 思い出した! 男の人ばっかりだからって,あれはないと思ったのよ!」
  「あのときは,すまなかったね.伯父さん伯母さんに,こっぴどく叱られて,親父と2人で反省したよ」
「それでね…ちょっと気になることがあったの」
  「どした?」
「最後の曲ね.プレイ中にときどき,あたしの方,向いてたでしょ」
  「うん」
「よく見てたらね.ジャンプして,左右の矢印を両方踏むときだけ,そんなことしてて,そうじゃないときは,画面のほうを向いてたと思うの」
  「よく見てるなあ.そのとおり!」
「あれ,面白いの?」
  「面白いっていうか,練習の一部だね.まだ完璧じゃなくて,コンボはよく切れてた」
「れんしゅう??」
  「DDRを極めようとする人っても,いろいろあって,代表的なのが,スコアラーとパフォーマー
「すこあら?? ぱふぉ??」
  「高い点数を取るのを目指すのが,スコアラー.点数よりも,ステージの上で,まあ人によってはステージの周辺や観客も使うんだけど,魅せるのが,パフォーマー
「で,フミオ兄ちゃんはパフォーマーなの?」
  「今はね,パフォーマー大会で上位を目指してる」
「難しいの?」
  「魅せる必要もあるし,曲自体はクリアしないといけないからね」
「それで,あたしの方を向いていたってのは?」
  「あああれね.普通なら,別に向きを変えなくてもいい.左の矢印は左足で,右の矢印は右足で,踏めばいいんだ」
「普通じゃなかった,ってこと?」
  「そう.わざと反対に,左の矢印のところを右足で,右の矢印のところを左足で踏んでみたってこと」
「どうして?」
  「DDRのプレイの本質はね…」
「ほんしつ?? あ,パパもよく言ってる」
  「そうか.まあ聞いてな.画面上の矢印にタイミングを合わせて,ステージの矢印に圧力をかけることなんだ」
「それが踏むってこと!?」
  「踏むかどうかは重要じゃない.手で叩いても,道具を使ってもいい.反応するんならね.あ,反応ってのは,そうやって矢印のパネルにちゃんと圧力がかかるってこと」
「道具を使うの?」
  「パフォーマー大会では,そういう人もいるよ.でも普段は御法度かな.台を傷めやすいから」
「フミオ兄ちゃんも,手を使ったりするの?」
  「一時期,してた.今は足だけで踏んで,全身を使ってパフォーマンスするのばっかしだけどね」
「じゃあ踏んでるんだ」
  「だけど,左の矢印を左足で踏む,右の矢印を右足で踏む,なんてルールはないんだ.逆にしてみて,魅せられる動きができないか,あれこれやってるってこと」
「ふうん.ねえフミオ兄ちゃん」
  「どした?」
「左の矢印を右足で,右の矢印を左足で,踏んでいいの?」
  「そう,いけないというルールはない.でもね,例えばもしだよ,ナオコちゃんが兄ちゃんのプレイを見て,DDRの楽しさに目覚めて,いろんな曲をものにしようとするときは,左は左足,右は右足.これを覚えてからだね」
「そんなの,覚えなくても,簡単じゃない」
  「いやいや,見るとやるとは大違い.チュートリアルで,あチュートリアルってのはプレイの説明のことね,左は左足,右は右足と出てきて,左右の同時も,ジャンプして,左は左足,右は右足をタイミングよく踏むんだ」
「それを反対にしたのが,さっきのフミオ兄ちゃん?」
  「まあそうなんだが…とにかくあれは,真似しないほうがいい」
「フミオ兄ちゃんだからできるの?」
  「逆だね.思いついて,練習すれば,兄ちゃん以上の実力の人なら,誰でもできる」
「あたしがしたら?」
  「まあ小学生パフォーマーは喜ばれるだろうね.でも最初っからああいうのをしちゃあ,いけない」
「どうして?」
  「それをするのがかっこいいと思ったら,それしかできなくなるから」
「…」
  「もっともっと楽しむことができるのに,そこに行く道を自ら閉ざすってのはよくない」
「けっきょく,するなってことなの?」
  「じゃなくてね…初めのうちは,普通の方法でプレイしたほうがいいよってこと.そして難しい曲になってから,どうすればいいか考え,他の人がやっているのも見て,そのときには普通じゃない方法も取り入れてみて,そして実際に体を使って,うまくいくか確かめるんだ」
「…なんとなく,わかった」
  「そうきた.さすが大学の先生やってる伯父さんの子だ」
「そうだ,そろそろ帰らないと!」
  「だね」
「最後に一つ,教えてくれる?」
  「何かな」
「普通の方法でプレイしてたら,その方法しかできなくなるんじゃないの?」
  「うーん.…昔兄ちゃんが,スコアラーで頑張っていたときのことだけど,普通のシーケンスをきちっと体に染みこませて,例外だけを普通じゃない方法で踏むとして,暗記してた.『例外』は,分かるかな?」
「うん,それもパパがよく言うから.それよりもしーけんすって何?」
  「あ,そっちのほうが分かりにくいよな.踏み方の順番のこと.1回踏んでおしまいじゃなくて,どんどん,踏まないといけないのが続くよね」
「そうだったね」
  「そういう,ひと続きのまとまりを,シーケンスって言うんだ」
「へえ」
  「まあ兄ちゃんの体と言葉で言ってみたけど,DDRは別にしなくていいよ.勉強がんばるんだよ」
「はあい.フミオ兄ちゃん,ありがとう!」

(4)

「ただいまあ」
  「おかえり,ナオコちゃん」
「これ,ゴウおじちゃんからの」
  「はい,ごくろうさん.で,こっちで調べてきたぞ」
「ねえねえ聞いて」
  「ん? どした」
「『1つ分の大きさ』×『いくつ分』が『ぜんたいの大きさ』になるでしょ」
  「そうだね」
「5まいのおさらにね,1こずつ,りんごをのせるの.それを『1つ分の大きさ』にしてね,それを3かいしたら『いくつ分』が3になってね.そしたら5×3になるの」
  「ああ,有名な別解だな」
「ダメ? あたしが考えたんだけど」
  「よし,お前が一生懸命考えた末の答えなのなら…聞いてみよう」
「なに?」
  「『3×5=15』というのを,思いつかなかったか?」
「えっ? 答案に,先生が赤で書いてくれた,これ?」
  「そうだ.その式を,その問題を解いているときに,思いつかなかったのかって,聞いてるの」
「えっと,どうだったかなあ…」
  「この問題を見たらね,『5×3=15』と『3×5=15』という式が作れるんだ」
「まあ,そうね」
  「それで,どっちが正解かな?」
「どっちも!」
  「それはお前がそう思うことだ.だけど先生は,『5×3=15』をバツにして,横に『3×5=15』って書いたんだから,こっちが正解ってことだよね?」
「そう.だからイヤなんだけど」
  「先生になって考えてみてくれる? この問題に,『5×3=15』って書いたら,どう思うか」
「…分かんない.先生じゃないし」
  「ふむ,じゃあパパが先生になってみよう.これね,『5×3=15』って式を見ると,『問題に書いてある順に,数字を書いてかけ算にしたんだな.《ぜんたいの大きさ》を求めるための,《1つ分の大きさ》と《いくつ分》が何か,分かってないんだなあ』と思うね」
「ちがうよ.あたし…」
  「言いたいことは分かる.けどね,『5×3=15』と書いたのでは,その式から,お前がよーく考えて思いついた『1つ分の大きさ』が何で『いくつ分』が何なのかが,伝わらなかったんだよ」
「じゃあ,どうすればいいの?」
  「この問題に限って言えば,もう一つのほう,『3×5=15』を書けばいい」
「やだ!」
  「どうしても自分の書いたのを,正解と思いたいのかな?」
「だって,正しい答えなんでしょ? さっき『別解』って言ったじゃない?」
  「その考え方はあり得る.だけど別解は『別の答えの求め方』であって,『別の正解』を必ずしも意味しない.それで,問題文からお前の言った考え方でその式になったというのは,ぜんぜん説明できない.マルバツをつけている先生に,それが伝わらなかったから,バツ
「じゃあ,今から言いに行く!」
  「こらこら,先生は覚えてないよ.先生がマルバツをつけているときに『なるほど,マル』と思ってもらうようにしなきゃ」
「じゃあ,どうすればいいの?」
  「この問題に限らず,いろんな問題を解くときに使える方法があってね」
「なになに?」
  「実は世の中,1つの問題に対して,答えは1つじゃない.たくさんある」
「じゃああたしの」
  「まあ聞きなさい.正解と思う答えの方法をいくつか出してみて,比べて,どれか1つを自分の答えとすること」
「えっ?」
  「『5×3=15』と『3×5=15』を思い浮かべてだね*1,採点する先生のことを思って,どっちかを選びなさいってこと」
「先生は算数好きって言ってるよ.だから…」
  「違う違う.あと,問題文もよく読むこと.それと,ちょっと難しいけど,消去法とか減点法とかいって,正解にならないかもしれないってのを見つけて取り除くってのが,役に立つんだよ」
「しょうきょほうは,聞いたことある!」
  「ほう.で,さっき言ったように,『5×3=15』は分かってもらえない可能性があるんで,取り除けってことなんだよ」
「うーん」
  「まだあきらめきれないんだな」
「パパの言いたいことが,分かってきたけど,でも分かんない」
  「じゃあ,できなかった子からできた子までの,階層を作ってみよう」
「かいそう??」
  「順番を決めるってことだ.まずは,この問題で,何も書けなかった子」
「何も…書けなかったら?」
  「もちろん点数にならないし,先生も心配するだろうね.これが分からなくて,もっともっと難しい問題に取り組めるのだろうかってね」
「うん,そうだね」
  「その上に書くのは,何か勘違いをした子.5や3を別の数と勘違いして,式にしたり,式だってのに,図を描いて,数えて15個という答えにした子かな」
「そんな子いないよ」
  「さあねえ.そしてその次に,問題文に5と3があって,かけ算を習ったんだからと,5×3=15と書いた子」
「あたしじゃないよ」
  「そうだね.その上が,『1つ分の大きさ』×『いくつ分』=『全体の大きさ』に当てはめて,答えまできちんと書いた子.つまり,『1つ分の大きさ』になるのを問題文の中から見つけてきて,3だね.『いくつ分』になるのも同じようにして,5だね.それで3×5=15いう式にして,『全体の大きさ』は15だけど,単位をつけて15個とした子だ」
「赤で書いた式よね,これ」
  「ああ.そして一番上に来るのは,『1つ分の大きさ』×『いくつ分』=『全体の大きさ』に当てはめる2種類の方法を理解して,3×5=15と5×3=15の2つの式を作って,比べて,3×5=15を選んで式に書いた子.もちろん答えも,単位つきで合ってないといけないよ」
「あ,さっきパパが言ってたよね」
  「ここが一番上だ.じゃあ,お前の考えと答えは,どこになると思う?」
「あ…そうねえ」
  「パパはここだと思う.5×3=15と書いた子のところを,2つに分けるんだ.かけ算を習ったんだからと書いた子が,下の層*2.お前のように,5まいのお皿に1個ずつを『1つ分の大きさ』,3回するから『いくつ分』を3として,5×3=15と書くのが上の層」
「そうなるんだ! で?」
  「そんなふうにして作った図で,正解と不正解の線を,どこに引けばいいと思う?」
「う〜ん…あたしのところから上!」
  「なるほど.そうしてみるか」
「できるの?」
  「いや,実はできないなあ.5×3=15という式を,採点する先生が見て,今分けた上の層と下の層のどっちかなんて判断できないから」
「じゃあ,5×3=15って書いた子もぜんぶ,マルにしてよ」
  「わがまま言うなあ」
「してしてしてして!!」
  「そこは結局,先生次第だ.先生が,70年代から議論されてきた,かけ算の順番のことを十分に承知していて,それでもなお,ここの式で5×3=15と書くのが良くないと思ってらっしゃるのなら,正解と不正解の線は上に来て,結局バツ
「ぎろん??」
  「あ,ちょっと待てよ.そんな議論を知らなくても,単純に,『5×3=15』を見て,《ぜんたいの大きさ》を求めるための,《1つ分の大きさ》と《いくつ分》が何か,分かってないと判断してバツって可能性もあるなあ…」
「パパ,結局どうなるの?」
  「すまなかったね.お前が生まれるよりもずっとむかしから,そして今でも,実はこの問いについては議論があったんだ.でもそんな議論はおいといて…無視ではないんだけどね,マルバツをつける先生が,今回の問題で,より多くの子にマルをつけたいと思ったら,下から3番目,つまり5×3=15と書いた子から上が,み〜んなマル」
「それで,マルをつけたくなかったから,ここ(上の2段を指さす)だけマルにしたってこと?」
  「そうだ」
「先生,ずるいよ!」
  「ま,厳しいめに取ったんだろう.パパの授業でも,安全側か利便側かって言い方があってね.安全側ってのはマルを少なくすること,利便側ってのはマルを多くすることなんだ」
「どうして?」
  「何個か理由が思い浮かぶけど,パパの授業になぞらえて言うと,5×3=15もマルということは,2つに分けた下のほうの子を全部マルにするってことだね」
「うん」
  「そういった子が,将来,こういう問題は2つの数をかけ算すればいいんだと思ってしまう可能性がある」
「ダメ?」
  「この問題については,いい.きちんというと,2つに分けた層の上の子,お前もだな,の考え方があるから」
「じゃあ,いいんじゃないの?」
  「でもね.2つの数がある問題のすべてが,かけ算をすれば答えられるってわけじゃないし,問題の中に数がたくさんあったときに,どれを選んでどんな式で計算したらいいかってことになったら,ダメになっちゃう」
「3年生になったら,そうなるの?」
  「そうだね.いや,2年生でも,あるかもね」
「結局,バツなの?」
  「『式』を答えさせているんだから,そういうことまで気をつかって,厳しいめに取ったのかなとは思うね」
「変なの」
  「あくまでこれは想像だよ.先生には聞いていないから」
「え? あたしが出かけてたとき,先生に聞いたんじゃなかったの?」
  「うーん,担任の先生とはメールアドレスを交換したけど,今回はやりとりしなかったなあ」
「どうして?」
  「お前の答えを見た瞬間に思ったんだ.お前は,これをマルにしてほしいんだよな」
「うん!」
  「だけどパパは,これをマルにするのでは,お前がこれからもっともっと難しい算数だとか,中学になったら数学っていうんだけど,そういうのを勉強するときに,損をするんじゃないかなあってね」
「え!?」
  「パパは,これをバツにするのを肯定する.そうする担任の先生であり,小学校であるのを,肯定するんだ」
「あたしの考え方は,ダメってこと?」
  「ダメではない.でも足りてない.階層として描いた中の,一番上に行き着かないといけない.ちなみに言っちゃなんだけど,複数作って比較するっていうのは,小学生でも教えればできるし,大学生でも知らない人は知らないんだ.大学の教員で,知らない人がいたらまずいけどね」
「ふうん」
  「そうだなあ,パパが通っている,大学の中でのことをちょっとだけ言うなら,学生でもパパでも,これが正しいと思って文章にしたり,みんなの前でしゃべったりするんだけど,ああだこうだと言われて,正しいという思いはあっても,使う言葉や文章の書き方を変えるってのが,よくあるんだ」
「そんなのでいいの?」
  「途中にバツがあってもいいんだ.最終的に,マルになればいいんだよ」

*1:細かいことをいうと,「思い浮かべる」だけではなく「なぜそうなるかを説明できる」必要もあります.その説明を,答案が返ってから異議申し立てで言うか,答案の中に書くか,答案にストレートに書けないけれどもなぜなのか推測しやすい形で記述するかは,出題状況・出題形式に依存します.

*2:本当は「3×5=15」と書くつもりだったのだけど,勘違いか何かで「5×3=15」と書いてしまった子というのも,この層に含まれます.