わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

聞いた見た書いた

出題例から学ぶ,乗法の意味理解に対して,多数のアクセス,ならびにブックマーク,ありがとうございました.多くの方は「事例(のひどさ)」としてとらえられたかと思いますが,私も,それまで《BA型》がないと思っていた本を読み直して発見したり,《BA型》と書いてリリースしてから《AB型》なことに気づいたりと,収穫がありました.
さてそのはてブコメントや,他のところで,見かけた気になる情報をいくつか,取り上げたいと思います.

金田論文

id:mobanama 本筋じゃない部分, 教育, これはひどい "金田茂裕: 小学2年生の乗法場面に関する理解""大学生は被乗数と乗数のちがいをほとんど意識していないか、または、乗法の計算式が「被乗数×乗数」で表されることを理解していないと推測される"便法を絶対的ドグマ化。

http://b.hatena.ne.jp/mobanama/20110727#bookmark-52550666

「被乗数と乗数のちがい」について,論文の最初の段落に,被乗数と乗数が表す対象が記されています.是非取り寄せて,読んでみてください.
個人的には,この論文の内容について少々気になるところもあるのですが,ともあれ「かけ算の(式の)順序」の文脈で言うと,「順序を持たせるべきではない」と考える個人またはグループによって,この論文を超える,学術的に信頼の置ける成果が挙げられるのか,疑問を持っています.
それを学術的な問題ではないとしたとき,その普及活動が「ゲーム脳」「水伝*1」にならないか,不安があります.

F=ma

id:div_zero こういうの作ってる人たちは、例えばニュートン運動方程式 F=ma をどう解釈しているのかちょっと聞いてみたい。質量に加速度をかけるんだよ、加速度に質量をかけたらおかしいよね、とでも言うのかしら。

http://b.hatena.ne.jp/div_zero/20110727#bookmark-52550666

自分の読んだ中で,もっとも関連がありそうな記述を,引用します.

[3]乗法とは
(1つ分の大きさ)≡a,(いくつ分)≡bが認知できたあとで,(全体の大きさ)≡cを求めること であって,a×b=cまたはb×a=cと書く。
(『算数・数学教育つれづれ草』p.47)

これを書いたのは佐藤俊太郎氏で,『整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』にも論説が入っています(「わり算の意味と方法(5,6年)」, pp.131-133.初出は「新しい算数研究」1978年5月号(No.86),pp.5-7, p.11).「4〔枚〕×□=12〔枚〕」など,単位を含む式を書いていること(「除法の意味」の章の他の著者には見られない),交換法則をもとに「包含除と等分除を区別しなくてもすむので,学習が楽になろう」(p.133)と書いているなど,ユニークなように思います.「かけ算の式に順序を持たせるのはよくない」という主張を“担ぎ上げる”のにはいい研究者*2なのかもしれません.
F=maの件の個人的見解ですが,PV=nRTでも万有引力の式でも同じで,「小学2年生のときに使用できる約束事と,高校の物理化学を学ぶ時点で使用できる約束事は,違いますよね」です.あとどうしても思い出すのは,大学1年の線形代数で,先生がおもむろに「複素ベクトルでは内積は交換可能ではありませんよ」とおっしゃったことです.そう聞いたものの,いまだに使い道がありません*3

本/人

id:imo758 算数の教育界はほんと酷いな。「3人に2本ずつ」において「3×2」は「3(人)の2倍」ではなく「3(人)かつ2(本/人)」なのだ。だから乗じて単位がちゃんと本となって整合性がちゃんととれているではないか。

http://b.hatena.ne.jp/imo758/20110727#bookmark-52550666

id:rryu メモ 割り算を教えていない時には「本/人」みたいな単位は扱えないから単位の算出のかわりに生き残る方の単位の値を先に書くというルールなのだろうけど、割り算を教えた時に種明かししないとこの理不尽さはトラウマにな

http://b.hatena.ne.jp/rryu/20110728#bookmark-52550666

そもそも小学校の算数では,「本/人」という形の単位が,連続量・分離量(離散量)を問わず,現れません.学習指導要領およびその解説では,検索をかければ一発です.教科書には一つも当たっていませんが*4,問題集,学力テスト出題事例に,“パー書き”は,一切出てきません.
もちろん,数学教育協議会の指導方法を通じて,授業に取り入れる先生の存在は否定しませんし,塾や家庭で教える人だって,いるでしょう.一つ,引用します.

もう40年以上も前のことですが,筆者は子どもの算数の教科書を見ると単位をつけていないので,これでは数学ができなくなってしまうと思い,自宅で教えるときは式には単位をつけることを要求しました.上の男の子は私が相手のときは単位をつけ,学校ではつけないと使い分けました.結局両方でマルを貰っていたわけです(これはあとで知ったことです).一方,下の女の子は頑固に学校の先生の方針に従い,私のいうことは聞こうとはしませんでした.案の定,上の男の子の方が数学の実力はつくようになりました.
その結果はどうなったかというと,ともに東京大学に入学できましたが,男の子は理学部数学科に進学したのに対して,女の子は教養学部教養学科でした(もっともこの女の子も今は高校の数学教師をしていますが).
(『いろいろな量 (子どもを賢くする?よくわかる算数の授業 )』p.7)

id:imo758 さん,id:rryu さんへ:差し支えなければ教えてください.「本/人」のような,分離量(離散量)のパー書きは,いつ学んだでしょうか.学校の中でしょうか外でしょうか.高校の物理では出ていたでしょうか.出題例があればなおありがたいです.

算数で国語を

算数と国語を結びつけている先生がいます.田中博史氏です.

わたしの学校は専任制ですが,担任のクラスの国語授業を週に1時間だけ受け持っています.1時間目が算数,2時間目が国語というように続く時間をもらい,1時間目に勉強した算数の授業を作文に書く授業をときどきしているのです.
(『田中博史の楽しくて力がつく算数授業55の知恵―おいしい算数授業レシピ〈2〉 (hito*yume book)』p.114)

あとは書きませんが,誰でも思い浮かぶ方法との違い(工夫),児童に立ち寄った実施意図,成果,読者(学校の先生方)のための補足が2ページほどにまとめられていて,ブログにするにも学ぶべきストーリー展開だなあと思ってしまいました.
「国語」について,過去に読解力向上のためにできることは?というのを書いています.担任の先生,また学年や学校の取り組み方(ポリシー)次第かなと思います.

「かけ算の順序」に関する学術研究

思うところはいろいろあるけれど,あちらさんもどうやら控えてくださっている模様なので…
「かけ算の順序」が学術研究の対象とされてきたのかに限定し,調べてみました.
Googleではどうしようもないので,KAKEN — Research ProjectsCiNii Articles - 日本の論文をさがす - 国立情報学研究所で検索をかけました.普段から,論文題目や申請課題名を決めるとき,用語がどれくらい使われるかをチェックするのに,使用しています.
KAKENでは,

  • 「かけ算の順序」…0件.
  • 「かけ算 順序」…1件.ある年度の研究実績報告書の中に,別々の文で「順序良く」と「かけ算の学習を進めている」が出ているため.
  • 「掛け算の順序」…0件.
  • 「掛け算 順序」…5件.うち教育に関係するものは2件で,「かけ算の順序」論争に関係なし.
  • 「かけ算 順番」…0件.
  • 「積 順序」「積 順番」は3桁に達するが,ざっと見る限り,関係ないものばかり.
  • 「積の順序」…3件.無関係なものばかり.
  • 「積の順番」…2件.無関係なものばかり.
  • 「乗法の意味」…5件.うち課題名から無関係と判断できるのは1件.報告書から関連性が薄いと判断できるのは1件.3件のうち,1件は発表文献に「小数の乗法の意味に関する記号論的考察」があり,他の1件にも同じ文献が書かれている.http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/20730549は研究概要を見る限り気になる.
  • 「かけ算の意味」…2件.

CiNiiでは,

  • 「かけ算の順序」…0件.
  • 「かけ算 順序」…4件.うち2件は無関係,残り2件は自宅からは内容不明.
  • 「掛け算 順序」…1件.
  • 「乗法の意味」…55件.1件は無関係(情報処理学会論文誌).1955年に1件,60年代からは継続的.
  • 「かけ算の意味」…14件.

ヒット数,またヒットしたものについても中身を見ていくと,「かけ算の順序」という考え方での学術研究が皆無であると言わざるを得ません.「「算数教育に詳しい」人から「かけ算の意味」とか「式の意味」という言葉が出て来たら」なんて書くよりも,「かけ算の順序」「かけ算の式の順序(にこだわる)」といった言葉の妥当性について,日本の算数教育を本気で変えようとするおつもりなら,見直しを図るべきなのではないでしょうか.

カルト(翌日追記)

id:logic_master この人は「かけ算順序派」だものね。/ 絶対にこのカルトは粉砕する!

http://b.hatena.ne.jp/logic_master/20110729#bookmark-52807090

「トンデモ」扱いされているのは知っていますが,「カルト」は初めてで,ちょっと驚きました.申し訳ないのですが私としては,「かけ算の(式の)順序」というスローガンでもって,攻撃的な書き込みをする人々のほうが,カルトにふさわしいのではないかと思っています.教材研究,演算決定,教育評価(とくに形成的評価)といった用語を学ぶことも(したがって,それらの学校現場での適用について思いをめぐらせることも*5)せず,対象を故意に限定して,自分の得意な領域に引き込もうとしているように見えます.
レッテル貼りはさておき,小学校の教育現場に直接携われない者としては,Webの情報と合わせて,書籍や論文を読み,経緯を理解していくことしかないのかなと思っています.『かけ算には順序があるのか』は順序否定が活字になったものとして,脚光を浴びていますが,「どっちでもいい」を含む本は,去年10月に出ています.はてなキーワードでその情報を見ると,取り上げているのは当雑記のみと,悲しいものです.
また,今年になって,昭和50年代や2005年のこと(論説,学力テスト)をもとに現在の視点を取り入れ編集された書籍が出ており,いずれも被乗数と乗数の区別を大事にする記述(かけ算順序派の考え方)が見られます.カード式配り方(と,去年11月のコメントに書かれていましたので)に基づく児童の考え方とその対処は,2003年に出ていた本(これも順序派です)で知ることができました.

*1:あえてリンクはしませんが,いわゆる「かけ算の順序論争」と「水からの伝言」を結びつけて,当雑記内で検討したことがあります.

*2:『算数・数学教育つれづれ草』p.163によると,「IOND大学数学教育名誉博士福島大学名誉教授」とのこと.

*3:実ベクトルの内積については,言語処理なんかで,コサイン類似度で2要素間の関連度を求めるというのをよく見かけます.あれが非可換だったらちょっと困りもの.

*4:6年の「速さ」のところで,「km/h」の入ったスピードメーターを写真に入れているような教科書は,あっても不思議ではありませんが.

*5:「教材研究」「演算決定」「教育評価」「形成的評価」の,この論争に対する使いどころについて,いくつかは書いてきましたし,今後も書きたいと思っています.加えてこれらが,小学校教育の話を離れ,自分の本業(大学教育)にも活用できることに気づいたのは,大きな成果です.