わさっきhb

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積指向を展開,それと文章題3つ

  • 被乗数と乗数が区別され,反対にして書くと,式の意味が異なるようなかけ算を,「倍の乗法」と呼びます.
  • 被乗数と乗数の区別は本質的ではなく,反対にして書いても,その対象あるいは場面を表していると解釈できるようなかけ算を,「積の乗法」と呼びます.
  • 「倍の乗法」に基づいて,乗法を意味づけるべきだという考え方を,「倍指向」と呼びます.
  • 「積の乗法」に基づいて,乗法を意味づけるべきだという考え方を,「積指向」と呼びます.

倍指向と積指向は,次のように言い換えることができます.

  • かけ算で表すことのできるどんな場面や対象も,「倍の乗法」に帰着できるとする考え方を,「倍指向」と呼びます.
  • かけ算で表すことのできるどんな場面や対象も,「積の乗法」に帰着できるとする考え方を,「積指向」と呼びます.

もちろんこうしても,小学校の算数教育では,倍指向であることには変わりません.
ここで個人的な立ち位置を書いておきますと,「どんな場面や対象も…帰着できる」というのが極端なのであって,「『倍の乗法』に帰着するのがよい場面・対象・問題」と「『積の乗法』に帰着するのがよい場面・対象・問題」があるのだろうなと思っています.ただし算数・数学教育という観点では,教員や教育システム,学習する児童の数などを考慮する必要があります.
あくまで私自身の見立てですが,小学校では「倍指向」に大きく傾いており,中学以降,大人では,“あいだ”になると思います.以下は言葉遊びとして,「倍指向」と「積指向」を直交するベクトルのようなものとみなし,係数の和が1になる線形結合で表してみると,

  • かけ算の導入時には,0.95倍指向+0.05積指向
  • 長方形の面積の学習後には,0.85倍指向+0.15積指向
  • 中学以降は,0.6倍指向+0.4積指向

くらいでしょうか.かけ算の導入時に,積指向の要素が入る(係数が0ではない)のは,アレイ図があるためです.中学以降の倍指向の要素として,物理ほかの公式化,資料の整理を挙げることができます.


補足を2つ.「(同数)累加」は,倍指向の前提となります.実際,累加で乗法を意味づけるとき,被乗数と乗数の順序に意味があることは,『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践 (MINERVA21世紀教科教育講座)』p.113に記されています*1
倍の乗法・積の乗法・倍指向・積指向を考えている間は,「被乗数と乗数の区別」に関心がありますが,「被乗数と乗数をそれぞれ“×”の左右どちらに書くべきか」については,別の問題,より正確には「被乗数と乗数の区別」があるときに,検討すべき問題*2です.
左右どちらに書くべきかについて,[Greer 1992]の先頭からp.280までを読み直すと,2例,文字式の中に「×」の入っているものはありますが,文章題に対してどれにも式が書かれていません.


「かけ算ではかける順序はどちらでもいい」に基づき,倍指向の現状の算数教育を攻撃する事例は,ブログのコメントから容易に見つかります.1点くらい,挙げておきますか.

あえてその逆をやってみます.積指向で学習するのでは苦労しそうな問題が,3種類,思い浮かびます.
一つは,図形のまわりの長さです.過去には俺演算決定で引用しています.

■の部分のまわりにロープをはります。■の部分のまわりにはるロープの長さは,どのような式で求められますか。
下の1から5までの中から2つ選んで,その番号を書きましょう。
1 5+3
2 5×3
3 5+3+5+3
4 5×3×2
5 (5+3)×2
(引用者注:図は省略.「■」は原文では網掛けの長方形)

平成19年度全国学力・学習状況調査 算数B 大問1(1)

長方形だからといって,2つの長さをかけて面積を求めるのではないよ,という出題意図が読み取れます.*3
2番目は,10円玉を長方形的配列にしたときの,総額の計算です.かけ算 - 楽天 みんなで解決!Q&Aにその議論があるのですが,問題文を作ってみます(数量は変更しています).

●は10円玉です.それぞれ,全部で何円か答えなさい.

(1)
●
●
●
(2)
●●●●●
(3)
●●●●●
●●●●●
●●●●●

(1)と(2)は,(3)で間違えさせやすくするために入れたものです.(1)は30円,(2)は50円,じゃあ(3)は30×50で1500円なのかというと,そうではありませんね.
上記はともに,(かけ算を含む)式にする際,少々複雑な操作が入っていました.ですが,「a×b」の形で表せる問題の中にも,要注意なものがあります.

1本136円で,280mL入りのジュースを4本買います。
代金はいくらですか。
(東京書籍 平成23年度版 小学校教科書 新しい算数 3年上p.104; 算数デジタルカタログ見本p.16)

この問題,「かけて,答えを出す」とすると,正解となる「136×4」のほか,「136×280」「280×4」「136×280×4」も候補になります.「かけ算の順序」は考えなくていいとしても,これら4通りの中からどれが正しい式なのかを,何らかの方法で見きわめる必要があります.
倍指向,そして2年・3年で標準的に学習している方法に基づけば,「何を求めたいのか」「加減乗除のどれを使えばよさそうか」「『一つ分の大きさ』×『幾つ分』=『全体の大きさ』に当てはめることができないか」と考えていくことで,正解を得ることが期待できます.もし自力でできなかったり,間違えたりしたとしても,先生や親きょうだいが,このプロセスを解説するなり,本人とともに考えるなりすれば,答えにたどり着くことができそうです.


何かあればいつもは次の日に改稿しているのですが,今日はその日のうちに行いました.タイトルも,当初の「積指向だと苦労しそうな問題」から変更しています.

*1:ルールを決めればこっちのもの-乗法の導入の解説

*2:「被乗数と乗数の区別」がないものに対して,2つの因数を左右に分けて書くのは便宜上のものであって,どちらに書くのかは本質ではない,と言えます.

*3:ただしこの問題では,1〜5をそれぞれ計算して,計算結果の一致する2つを答えとするという技が使えます.