わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

九九する究めるハックする

雑報です.

1. 緑表紙で複数解

いきなりですが問題です.

算数授業研究 VOL.80』の表紙裏にあった問題です.小サイ マル ヤ 三カク ガ,イクツ アリマス カ。
6つ見て,まず目に入ったのは,同心円上の小さいマルの配置です.4つをひとまとまりと見れば,4×6=24ですし,同じ円周上の6つをひとまとまりと見れば,6×4=24と表せます.
右下の平行四辺形的配置からは,4×9=36(それと4×3×3=36),6×6=36が見えます.
同心円の左の正三角形の並びだと,6×4=24,8×3=24が思い浮かびます.あとは,1辺の長さが3の正三角形が2つと,小さいのが6つ一直線,というふうに見れば,9×2+6=24ですか.
正三角形の直線的な並びについては,昨日から読み始めた本でも見かけました.そのうち取り上げます.Webで探すと…http://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~ando/jmo.pdf#page=13の11の問題です.

2. 東大附属入試のかけ算

新版 学び合いで育つ未来への学力―中高一貫教育のチャレンジ―

新版 学び合いで育つ未来への学力―中高一貫教育のチャレンジ―

これは,2012年2月6日(学び合い支えあう教室)をきっかけに,知った本です.
内容はというと,東京大学教育学部附属中等教育学校でやっていることの紹介で,テレビ番組で出ていた「学び合い」のことは,ほんのわずかでした.双生児研究の話は,「[本][親馬鹿2]」というカテゴリーをつけて,後日取り上げます.
平成21年度の推薦選抜に,下水道料金表をもとにして,料金を計算するという出題があります*1.その計算例が,目を引きました.

「110円×8m^3=880円」とあります.中学入試で,無頓着な単位の使用*2,ですか…
ではなくてこの式では,「8m^3」と書いているものの,意味合いは「8倍」なのでしょう.乗数です.
自分なりに読み方を一般化し,またその後,同じ考えの著書を知ることができました.抜き書きします.

2番目の考え方は,倍概念と呼ばれます.さらに分類ができるのですが,本日は簡単のため,「かけられる数と答え(積)の単位を同じにする」と「かける数の単位は,場面(問題文など)をもとにして付けるが,計算において無視される」という2個1組に限定します.

「かけ算の順序」のダブスタ考

例題1 重さ0.4kgの本が6さつあります。重さは全部で何kgになりますか。
(略)
(式) 0.4×6=2.4 答え2.4kg
この式は,ことばの式で書くと,ふつう 1さつの重さ×さっ数=全部の重さ と表します。
でも,この式の意味をもっと正確に書くと,0.4(kg)×6(さつ)ではなく,0.4kgの6倍という意味だということを理解しておきましょう。

4マス関係表

3. 五角柱の頂点の数

続いて頂点の数を考えます。これはあまり多様な意見がなく,五角柱の場合「5+5」と「5×2」に集約してしまいます。そこで私の方から,
「2×5には見えないかなあ。」
と揺さぶってみました。しばらくして一人の児童が,
「縦に並んでいる2つの点が5カ所あるから2×5になる。」
と説明しました。説明も上手でしたが,「点」という目に見えにくいものは,なかなか多様には見えにくいことも分かりました。

式というフィルター ( 小学校 ) - 授業がんばりMATH - Yahoo!ブログ

見方を変えると,5×2にも2×5にもなる,というのの空間図形バージョンです.
この授業には,他にも特色があります.面の数,頂点の数,辺の数という順序で,数えています.面,辺,頂点と小さくしていくのでも,頂点,辺,面と大きくしていくのでもありません.
面は最も目につくので,先に取り扱ったのでしょう.そして頂点が先,辺が後になっているのは,上記の児童の「縦に並んでいる2つの点」を,頂点の数え方を通じて引き出したかったからでしょうか.実際,その2つの点は,上の面と下の面を結ぶ,一つの辺の両端となります.
三角柱から○角柱までの,頂点・辺・面の関係表も,きれいにまとまっています.「○×2のところは,2×○じゃダメなの」という疑問には,○角柱の「○」を基準とした関係式と思えばよさそうです.

4. 式と図

ところが,正木先生は,次のように言う。
>冒頭に示した文章題に対し5×3と立式する子どもが多い。イメージを描くことができず文の中に登場した数の順序だけに頼っている子どもである。こんなときは文が表す絵を描かせてみたいと思う。まずお皿を5枚描き,その上にたこ焼きを3つずつ載せて行く。その3つずつ描いていく動作がかけ算のイメージと結びつく。<
 5×3のように立式する子どものおそらく全員が,状況を表す絵を正しく描けていることを示す調査があった。
http://www18.atwiki.jp/kakezan/pages/38.html
それでも,5×3は間違いだというのだろうか。

「かけ算を究める」(筑波大附属小)について・3 | メタメタの日

Wikiのページを見て,http://ideacraft.jp/T/2012-0114-Wakayanagi.pdfを読みました.
「それでも,5×3は間違いだというのだろうか。」の答えは,「ええ,学校教育では,間違いとなります」です.この件は

このように描いたのに,もし式を「5×4」と書いたとすると,この子は読み取りができないのではなくて,式の意味を間違えて覚えているだけとなります。治療するところが変わりますよね。
式を「5×4」と書いた子どもに「ちゃんと文章を読んでごらん」といくら指導をしてもだめです。この子は逆に覚えているわけですから.絵が図にできたら,その後で算数の言葉に表し直して「4×5」と書くんだよと.ここは確認していいところです。「こういう絵のことを4×5と言うんだよ」と教えるのです。
(p.65)

次は式に結びつける段階で,子どもが式の意味がわかっているかどうかをチェックすることができます。子どもたちが1つの正解にたどり着くまでの小さなステップですね。それを見てやろうとすると,ちょっと優しい気持ちになれます。「ああなんだ,この子,文は読めているじゃないか。式が書けないのは,私が意味をちゃんと伝えることができなかったんだな」と気づけます。また,「この子は文を読んで絵に描くことはできている。ということは,かけ算の意味はわかっているな。この子には読解力というか,文章を読んでイメージさせることをたくさんさせなければいけないな」ということにも気づけます。
子どもによってやらせる場所が変わってくるようになります。
(p.67)

先達に学ぶ,移り変わりを知る

のうち,「式の意味を間違えて覚えている」「私が意味をちゃんと伝えることができなかったんだな」のほうです.
そしてなのですが,「5×3のように立式する子どものおそらく全員が,状況を表す絵を正しく描けていることを示す」というのは,そのPDFファイルの内容を断片的にしか捉えていないように思えます.
そこでのテーマは,副題にもあるとおり「2位数×2位数」の授業です.小単元名として「2けたの数をかける計算」とも書かれています.
そのもとで,りんごの問題(【問5】)は何なのかというと,レディネステストに位置づけられます.本時の授業をするにあたり,それまでに学習した,かけ算のことが,クラスでどれだけ身についているのかなというのを確認するためのテストです.
知識の定着を確認するためのテストではないので,正解率は低くなります.理由は2つあって,児童はあまり準備をせずに解答するのと,あともう一つは,ここで正解率が高いのでは,教育する側として意義が見出せないというのがあります*3
このことを前提として,【問5】を読み直すと,式の正答率を低くする作為の入った出題に見えてなりません.
“場面を理解しているか”そして“適切な式として表せるか”を問うのなら,絵を書かせるのを先にするのが,自然なやり方でしょう.あるいはあえてこの順にして*4,多くの子どもたちが絵まで描き終えたところで「式はそれでいいかな?」と先生が声をかけ,振り返らせるという手もあります.式が誤答の何人かは,2年で学習したことを思い出し,正答のほうに移るというのだって,あり得るわけです.
本文に書かれていませんので私の推測ですが,レディネステストという性格から,そのような答案の確認をさせなかったと思われます.
それで…

この結果から分かること
1.立式順序で問題状況の理解を測ることはできない
2.絵を描かせれば、問題状況の理解を測ることができる。

- 「掛け算順序固定」問題対策本部 - アットウィキ

今回の出題は,正答率を低く見せるための要素が入っていますので,1について同意できません.
「わざと正答率を低くするなんて,ずるい」と思った人は,レディネステスト(診断的評価)を起点に,どうか教育評価について理解を深めてください.
私はこの出題の仕方は好きではないけれども,一つのやり方と思っています.以前に書いた「間違えたっていい」「最終的には,解けるようになろう」「間違える子がそれなりにいたっていい」「間違いの原因をすぐに見きわめ,児童らに即,フィードバックする」(2011年6月26日(その後「×」から学んだこと・毒編))と重なります.

5. ゼスチャー

冒頭の文章ではお皿は5枚だったのに4枚になっているのは,まぁいいだろう。イメージと言いつつ,「図では表せない」というから,静止した図ではだめで動きのある映像のことらしい。映像なら,熱血教師のゼスチャーではなくCGという方法がある。CGなら子どもの脳内スクリーンにそのまま映しだされるだろう。しかし,実際に並べるにしろ,ゼスチャーにしろ,CGにしろ,並べ方が問題だ。(略)

「かけ算を究める」(筑波大附属小)について・3 | メタメタの日

パソコン上で“配り方”を見せる事例は,『算数授業研究 77 特集:まるごと1冊新内容の算数授業!ここがポイント』p.69,『算数授業研究 79』p.41にあります.
いずれも「スクールプレゼンター」を使った授業事例です.体験版をインストールしてみましたが,この配る話は,入っていませんでした.
これまでも書いているように,並べ方(配り方)が2種類あるうち,いわゆるトランプ配りのほうは,学校でも,包含除の説明のために使用されています.かけ算においては見られません.かけ算でも言えるじゃないかという人は,授業を提案してください*5.そう考える子どもがいると言いたいなら,まずはその存在を,学術的な批判に耐える文書にとりまとめてください.
それと,「並べ方を問題」にするのなら,「並べ方を問題にしてはいけない」事例と対比したいところです.『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』には,「子どもが3人います。みかんを1人に2こずつあげます。みんなでなんこいりますか。」という出題に対して,「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる。」という注意を記しています.第1学年の「具体物をまとめて数える」という授業ですが,もちろんこれは乗法の意味理解の素地となっています.

6. 第n次『かけ算の順序』論争ブーム

ここ数年、ごく一部の界隈で「第n次『かけ算の順序』論争ブーム」だそうで。

かけ算の順序 - お花畑めざして

かけ算の順序 (ブログ「お花畑めざして」から) (訂正・追記あり) - 村野瀬玲奈の秘書課広報室経由です.こちらのブログはときどき見させていただいております.
本文,そこからのリンク,そしてコメントを読む限り,「かけ算の順序の強制」ではないんです「被乗数と乗数の意味の理解」なんですとか,算数・数学教育はこう考えそして動いているわけですと(ただし私も現場にいるわけではないけれど)情報を提示するのは,意味がなさそうです.
まあ,つついときますか.

現在多くの小学校では、教科書指導書等に従い「6×4=4×6」を認めないようです。(3/2訂正)

4年で交換法則を学習すれば,6×4=4×6と表せます.2年では,6×4=24,4×6=24として,6×4と4×6は,式の意味は違うけれど,答えは同じ(積は等しい)という形で,交換法則(名称はさておき)を学びます.なお,乗法に関して成り立つ性質|算数用語集は2年向けの内容ですが「3×5=5×3」とあります.
「6×4と4×6は,式の意味は違う」について,異論をお持ちなのでしょうが,それらの区別が期待される,より具体的な場面としては,次の3つをご覧ください.

それと,東大附属の話で,「110円×8m^3=880m^3にはならないんだろうか」という問題意識も,持っていいのではないかと思います.…
いえいえ,ここまで読んで「よし本屋へ行こう!」という人もいないでしょうね.かけ算・資料集(1, 2)からどうぞ.
先週,2日間の年休をとって旅をして,その中でふと,「6人のこどもに、1人4こずつみかんをあたえたい。みかんはいくつあればよいでしょうか」という出題で,6×4=24の式にマルをつけるような教育は,乗法を構成する2つの数量の区別を曖昧にさせてしまい,「1株61万円で売る株を,1円で61万株を売るという誤発注」(『かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)』p.iii)を引き起こす可能性が高まるのではないか,という仮説を持つようになりました.時間をとって詳細化したいと思います.

7. 本日のタイトルの意味は

深い意味はありません.
ただ,2012年2月26日(雑報一覧(2012年版))のタイトルを見直したときに,ここのところ遊び心が減ったなあという感がありまして,先月出た筑波の算数の本のテーマ,「かけ算を究める」をもじってみました.
(最終更新日時:Thu Mar 8 23:46:58 2012ごろ)

*1:p.14.ただし後ろからめくっていって見つかるページ番号です.本自体は,右綴じ・縦書きです.

*2:細かいツッコミを入れるなら,その式の左の「9〜」のところでしょう.連続量なので,「8〜」のほうが自然です.

*3:関連?:2010年3月12日(100mを20秒で走れるかテスト)

*4:関連:2011年11月19日(今年の全国学力テストにみる,かけ算の順序)

*5:トランプ配りという言葉を使っていないものの,『誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり―第2回RISE授業実践セミナーの報告』の算数授業が,先行事例になっているのもお忘れなく.