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被加数・加数の順序

第1学年で「たし算」を学習する場面で,例えば,「赤い車3台と白い車2台があります。車は全部で何台あるでしょう?」(問題{1})という場面において,この事象を「3+2」と表すことを指導する。
(略)
また,同じ1年生のたし算でも,例えば「駐車場に赤い車が3台停まっていました。後から白い車が2台やってきました。駐車場の車は何台になりましたか?」(問題{2})という事象も扱う。ここでも同様に文字を書き写させ,絵に描かせてみたりブロック操作をさせてみたりすると,子どもはやはり手間どる。一方,「式」に表す場合は,やはり単純に「3+2」と表すことができる。
(略)
ところが,これら2つの問題場面を「2+3」という「式」で表現したらどうなるだろう。和を求めるという点では「3+2」であろうが「2+3」であろうが数学的にはどちらの式も間違いではない。しかし,1年生の子どものとらえ方は違う。
問題{1}は「3+2」でも「2+3」でもよいが,問題{2}の場合は,「3+2」でなければだめだという。
つまり,「合併」の事象である問題{1}は被加数,加数の順序は関係ないと判断し,「増加」の事象である問題{2}は被加数,加数の順序に意味があると考えるのが子どもなのである。時系列という点から考えると,問題{2}のほうは確かに被加数,加数の順番に重要な意味合いが込められることになる。
このように同じ「3+2」という「式」で表現されるにもかかわらず,その「式」の意味が異なるということを子ども自身が実感的に体験することは,言語としての「式」を理解する上で重要な体験だと考えられる。つまり,「3」と「2」という数字を記号「+」でつないで併記したものが「式」であるという認識ではなく,「式」は「話」を表しているという見方であり,1年生の子どもの発達段階としてはとても自然で理解しやすいわけである。
(山本良和:式の「よさ」を味わう授業,『算数授業研究 VOL.82』pp.2-3.「{数}」は原文では丸囲み数字)

 算数授業研究の最新刊です.6月15日発行となっています.上記はその中でも,「提起文」として書かれている内容の一部です.
 「被加数,加数の順序(順番)」と書くことが妥当なのかについては,YESでもありNOでもあると思っています.NOの理由を先に書きますが,「順序(順番)」という言葉を用いなくても,被加数と加数を交換して書いた式を,もとの式と区別したくなる状況というのは,いくらでも思いつきます.一例を挙げると,冬に「昨日の最高気温は1度だった.今日は昨日より6度高くなるというので,最高気温は7度だ」と推論する際に用いる式は「1+6=7」ですが,「6+1=7」という式だと,前日から大して変わらないように思えるのです.
Y ESなのは,「かけ算の順序論争」の知見が使えそうな点です.すなわち,

  • 乗法に〈乗数と被乗数が区別される文脈〉と〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉があるのと同様に,加法にも〈加数と被加数が区別される文脈〉と〈加数と被加数を区別しない文脈〉が考えられます.
  • 〈加数と被加数が区別される文脈〉は「増加」(または「添加」),〈加数と被加数を区別しない文脈〉は「合併」という名称で,算数教育の場で十分に普及しています.
  • ただし,加法は〈加数と被加数を区別しない文脈〉から先に学習するのが良いとされています.乗法が〈乗数と被乗数が区別される文脈〉から先なのと対照的です.

 いくつか本やWebの情報を確認しました.

  • 《算数解説》ではp.67に「ア 加法,減法が用いられる場合とその意味」として解説されています.加法が用いられる場合には「増加」「合併」「順序数を含む加法」の3項目を挙げています,同じページには「加法は二つの集合を合わせた集合の要素の個数を求める演算であり」と書かれており,合併が,加法という演算のコアであるように読めます.
  • 算数教育指導用語辞典』ではp.198にあります.脚注に「導入場面として合併を扱うことが多い」と記されています.
  • 数の科学―水道方式の基礎 (1975年) (教育文庫〈7〉)』だと第3章,その中でもはじめのpp.60-67です.名称は「合併型(union)」と「添加型または増加型(adjunction)」となっています.添加型については「意味の上からは確かに 4+3≠3+4 であって厳密には交換法則は成り立たない。この両辺の《値》が等しくなるのは,ただの結果としてにすぎない」(p.62)と付記されています.導入としては,(同種のものの)合併を最初としています(p.65).
  • 整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』に収録されている論説の中では,最初の,内海庄三「加法・減法の意味と計算規則の役割」(pp.12-19.初出は「新しい算数研究」1978年7月号(No.88),pp.2-9)を見ておきます.加法の意味として,{ア}から{オ}までの5項目を記載していて,{イ}は「添加の和」,{ウ}は「増加の和」,{エ}は「併存の和」です.{エ}の説明の終わりに,a+b=b+aすなわち交換法則が言及されていますが,「(イ),(ウ)の場合には(略)時間的前後関係が存在するので,このままでは交換法則をすなおに理解することは,困難である」(p.16)と述べています.
  • 活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』では,p.27,p.28,p.29の見出しが順に「合併の場面の理解」「合併の場面の加法の式」「増加の場面の理解」となっています.
  • 海外情報は,またもCommon Core State Standards for Mathematicsに当たりました.Grade 1(第1学年)の学習内容として,p.13に加法・減法の記載があります.途中に「to model add-to, take-from, put-together, take-apart, and compare situations」と書かれていまして,「増加」「求残」「合併」「求差」「比較」の各場面をモデル化する(具体物を使って表す)こと,と解釈するのがよさそうです.
  • 木曜会(2012/01/26)という文書にも,「たし算の場合も順序性がある(小学校でも教えている)」が書かれています.これは,かけ算の意味理解を促すための問題状況の図示の試みが背景にあります.

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