「脱・管理型教育」の処方箋―自立と対話のクラスを生みだす6つのキーワード
- 作者: 岩堀禎廣
- 出版社/メーカー: 三省堂
- 発売日: 2010/08/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
書かないことの影響を意識する
あなたは、授業中に生徒に質問して得た回答の全てをきちんと板書しているでしょうか。授業意図に沿った回答だけを選択して板書していないでしょうか。これは、回答を書かれなかった生徒に想像以上に大きな影響を与えます。
あるとき、公開の研究授業でこのような場面がありました。その日の授業は、1955年の黒人によるバス・ボイコット事件を題材に差別について考える内容でした。題材に対して生徒からはさまざまな意見が出されました。多くは「差別はいけない」という単純な回答でしたが、「争いを避けるためにはボイコット以外の方法もあったはずだ」「差別ではなく区別として、住み分けるのも検討する価値があるのでは」といった特徴的な意見も出てきました。しかし、教師は「差別はいけない」という内容のみを板書していました。「差別はいけない」という授業で「意見の差別」が見られたのでした。恐らく、少数派の支持されなかった意見を出した生徒は、今後、発言する意欲を失うでしょう。
生徒から募った意見をあえて板書しないということは、教師はそこまでの深い意図は無かったとしても、それを書かれなかった生徒には、「あなたの意見は間違いだ」「あなたの意見はダメだ」「あなたの意見は不要だ」「少なくとも書く価値はない」というメッセージが伝わってしまいます。
(p.132)
「1955年の…」は,wikipedia:モンゴメリー・バス・ボイコット事件のことですね.
ともあれ,上記を読んで,自分として振り返らないといけないのは,プログラミング科目です.レポートや試験の答案です.
こちらで用意した解答例の後ろに,「誤答例」というのを載せています.一つ一つに,こちらのコメントもつけています.試験から1例を取り出してみると,コマンドライン引数の処理に関連して「第i+1引数」という表現を見かけました.意味は分かるけれど,プログラムコードの説明として,良い書き方・言い方とは思えません.そこで「argv[i]*1」や「先頭を0番目としてi番目の引数」とすれば,簡潔で*2,誤解されにくくなることを,コメントとして書いておきました.
個々の答え・反応ではなく,授業をする側が多様な答え・反応をどのように受け止めるべきかに,話を戻すと…
あれダメこれダメの取りまとめは,実のところ,簡単に行えます.あら探しってやつです.
しかしそれで終わっていては,「こんな書き方は間違いだ」「この意見はダメだ」「この文は不要だ」「少なくとも書く価値はない」というメッセージと,なってしまいかねません.
レポートにせよ試験(記述・論述)にせよ,多彩な解答の中から,良い文や語句を見つけ,紹介することも,していかないとなあと感じました.苦労して書いた学生は,自分の文が(肯定的に)取り上げられて喜ぶことができ,他の学生は,そういう書き方をすればいいのかと,参考にできるわけです.
レポートで,こちらの提示したソースファイルは保守性の観点で何がまずく,どう改善すればよいかの設問を入れていました.解答例では数項目を並べ,「自作関数のnewはC++の予約語であり,C/C++対応のコンパイラではエラーとなる」も挙げました.この項目は,出題時には考えていなかったもので*3,レポート提出期限よりも前,ある回の授業が終わってから,学生がこちらに来て,指摘してくれたのでした.
(最終更新:2013-02-25 朝)