http://bit.ly/17NC3QLはhttp://www.merga.net.au/documents/RP_Mulligan_1992.pdf(デッドリンク; 代わりに: https://www2.merga.net.au/documents/RP_Mulligan_1992.pdf)に展開されます.この文献を「Mulligan (1992b)」と書くことにします.というのも,同じ著者・同じ年の論文を,かけ算およびわり算の文章題に対する子どもたちの解法:長期調査で見てきているからです.こちらの文献は「Mulligan (1992a)」としておきます.
Mulligan (1992a)は「Mathematics Education Research Journal, Vol.4, No.1, 1992」とヘッダがついているのに対し,Mulligan (1992b)のほうは出典が不明です.しかしノンブル(フッタのページ番号)が410から始まっているので,書籍または報告書の一部と推測できます.またMulligan (1992b)ではMulligan (1992a)を引用しています.
どちらの文献にも,児童に解かせた文章題が載っています.Mulligan (1992a)ではTable 1,Mulligan (1992b)ではAPPENDIX Aです.比較すると,並びが少し異なっているところもありますが,問題は完全に一致しています.
Mulligan (1992b)は,タイトルにPARTITION PROBLEMSが含まれており,内容としても「配分課題」に集中しています.Mulligan (1992a)は乗除算ともに扱っていて,正解者数など量的なところを取りまとめているのに対し,Mulligan (1992b)では,手書き答案が3つ,紹介されています.
冒頭のツイートの「sharing one-by-one」「dealing」は,Mulligan (1992b)のアブストラクトに出てきます.訳しておきます.
This paper reports the findings for the division Partition problems revealing that children very rarely used a sharing one-by-one (dealing) strategy at any stage in the Longitudinal Study or Teaching Experiment. Instead, a variety of counting and grouping strategies such as estimation and grouping, one-to-many correspondence and trial-and error' grouping procedures was used. Knowledge of addition facts and skip (multiple) counting assisted children in forming equivalent groups.
(私訳:本論文では,等分除問題に関する知見として,子どもたちが一つずつ配って共有するという方略を使うのは,長期調査や教授実験のいかなる段階においても非常にまれであることが明らかになったので報告する.代わりに,数を見積もったりグループ化したりするといった,計数・分類による方略や,一対多対応,試行錯誤の分類手続きが用いられていた.たし算の答えや,まとめて数えるといった知識は,子どもたちが同数のグループを構成するのに役立っていた.)
当ブログで,トランプ配りに対しdealingを使用したのは,一昨年です.見直してたところ,"dealing-out"でした.
Let us get back to the apple problem. For that problem, we can take the following procedure:
- Lay out 5 dishes and make 15 or more apples ready.
- Put an apple on each dish, saying "first round".
- Hand out apples in the same manner, saying "second round" and "third round".
After finishing the procedure, you can see 5 dishes and 3 apples on each dish!
We can understand this procedure through the operation for dealing cards. The way of arranging the objects given above is therefore called "dealing-out". It was Toyama Hiraku, an educator as well as a mathematician, that wrote an article in 1972 which applies the dealing-out to the multiplication situation [Toyama 1972].
Towards Japanese Multiplication Instruction
その後,Greer (1992)を発端として他の洋書と照合し,また国内の算数指導の事例と比較していきました.
また新たな文献を紹介します.本文中に「トランプ配り」と明記されている,学術論文を見つけました.
- 山名裕子: 幼児における均等配分方略の発達的変化, 教育心理学研究, Vol.50, No.4, 446-455 (2002). https://ci.nii.ac.jp/naid/110001898376
オープンアクセスになっている論文PDFファイルをダウンロードして,読んでいくと,最初のページの右カラムで,海外文献を紹介しながらカッコ書きで「(「トランプ配り」という意味で「dealing-out strategy」と呼ばれている)」と記載がありました.
なのですが,論文全体を通して,その手法には「数巡方略」という用語を当てています.そして数巡方略は「従来指摘されていた方略」としています.
それに対し,1回にまとめて配るのは「一巡方略」です.論文としては,一巡方略が,小学校でわり算を学習するよりももっと前,3〜6歳の幼稚園・保育園の幼児にも,誤答が多いながらも見られることを,新たな知見としています.
具体的な方法や分析の詳細は,論文を見ていただきたいのですが,個人的には,「(お皿に)同じように分けてね」「同じ数ずつ分けてね*1」「○枚のお皿に同じように分けてね」という教示を変え,それぞれごとに分析しているところと,たった7文字ですが「ラポール形成後」という表記に,興味を覚えました.
山名のその後の文献を見ていくと,一巡方略の中でも,1皿に何個乗せるかを認知した上で正しく配るという方略を「ユニット方略」と定義しています*2.
とはいえ,「数巡方略」「一巡方略」「ユニット方略」といった名称はその分野で十分に定着しているとは言いがたく,山名の一連の研究や,それを引用している文献で用いられている程度のようです.以下の文献で,国内外の状況が整理されています.
- 山口真希: 幼児期の均等配分の発達に関する研究展望, 人間文化研究科年報(奈良女子大学大学院人間文化研究科), No.27, pp.147-156 (2012). https://ci.nii.ac.jp/naid/110009004259; https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/TD00002092
「等分除・包含除」は課題の分類です.「数巡方略・一巡方略」やdealing(-out)は方略の分類となります.「sharing(分配)・repeated subtraction(累減)」,「つ割・ずつ割」,「ニワリ・ズツワリ*3」,「分け算・取り算」,「ニコニコわり算・ドキドキわり算」は,課題と方略の中間的な存在のように思います.
(2021年7月追記)「トランプ配り」に関する取りまとめは,以下よりご覧ください.