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なぜ「道のり=時間×速さ」ではなく「道のり=速さ×時間」で,「速さ=時間÷道のり」ではなく「速さ=道のり÷時間」なのか

小学校6年生の算数で,「速さ=□÷□」「道のり=□×□」の□に当てはまる語句を書くという出題があります.この場合,「速さ=道のり÷時間」「道のり=速さ×時間」と書くことが期待されます.後者を「道のり=時間×速さ」と書いて不正解にされたという事例を先月,https://twitter.com/imadokicyu_2/status/701794667730341889より見かけました.やりとりはTwitterのほか,これはナゼ不正確なのですか? : 趣味・教育・教養 : 発言小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)でも読むことができます.
個人的には,授業を通じて「速さ=道のり÷時間」「道のり=速さ×時間」「時間=道のり÷速さ」を教わったはずで,そのまま答えればいいだけの問題なんだろなと思いました.また「はじき」の海外事例を調査した際にも,「速さ」が左側に位置されるのことを知り,比例定数と対応づけた検討とともに,はじき〜図で報告してきましたので,そこからも,「道のり=時間×速さ」は出にくいところです.
論争(?)の発端となった出題は,出自不明ですが,最近購入した本に,同じ出題が載っていました.

この本のp.71は,丸ごと,テストのプリントとなっています*1.「8. 速さ」というタイトルもついており,この単元のまとめテストと思われます.下段には「(テスト「算数の力T*2平成27年度 学校図書版6年上巻)」ともあります.
速さを含む言葉の式を完成させる問題は,大問2で,「速さ,道のり,時間のことばを使って,速さや道のりを求める式を書きましょう。」と出題しています.「(完答*3)各5点(10)」という配点と,式が2つ(「時間=道のり÷速さ」は問わない)なのは,先月見たものと変わりません.
1ページのテスト問題と,後述する関連情報を見ながら,疑問が思い浮かびました.「道のり=時間×速さ」でもいいじゃないかというのと別立てで,速さの言葉の式についても,「速さ=時間÷道のり」と,わられる数・わる数を反対にしてもいいのではないか,と.
「速さ=時間÷道のり」によって求めることについては,『小学校学習指導要領解説 算数編』に「速さを,単位時間当たりに移動する長さとしてとらえると,速いほど大きな数値が対応することになる。また,速さを,一定の長さを移動するのにかかる時間としてとらえると,速いほど小さな数値が対応することになる。」(PDF版p.199)の2番目の文がかかわってきます.また算数の力Tの上記テスト問題でも,「赤と青の自動車の速さを,1mあたり何秒かかったかを求めて比べましょう」とし,時間÷道のりを計算させています.
ですが学習指導要領解説の該当ページでは,「(速さ)=(長さ)÷(時間)」という式が2度,出現しています.長さを道のりに置き換えて,理解すべき公式は「速さ=時間÷道のり」ではなく「速さ=道のり÷時間」だと分かります.
それと,「速さ=時間÷道のり」とした場合の不都合は,道のりを求めようとしたときに苦労します.形式的には「道のり=時間÷速さ」です.なのですがこれは,ツイートや,算数の力Tに見られる,「道のり=□×□」と合いません.「道のり=時間ד速さ分の1”」と書くには無理があります.
というわけで「速さ=時間÷道のり」ではなく「速さ=道のり÷時間」なのですが,「道のり=時間×速さ」ではなく「道のり=速さ×時間」にシフトして,少し検討しておきます.
速さが一定のとき,道のりは時間に比例しますので,「速さ=道のり÷時間」で求められる速さを,比例定数とみなして,「道のり=速さ×時間」と書けばいい,というのが素朴な考え方です.
そうすると,6年の学習では比例を先に学習し,そのあと,速さを学習することになるのかと思い,調査してみると,これはハズレでした.http://www.gakuto.co.jp/web/jun/junsansu/からアクセスできる第6学年の指導計画によると,「8 速さ」が先,「12 比例と反比例」が後でした.
ただし,速さの単元をよく読むと,4〜5年で学習済みと思われる,比例の考え方が使われていました.「時間が2倍,3倍になったとき,道のりの変わり方を調べ,道のりの求め方を考える」の箇所です*4.また「時間=道のり÷速さ」に関連する学習活動は,「道のりを求める式から考える」となっており,言葉の式をもとにしているように見えます.
「(速さ)=(道のり)÷(時間)」という言葉の式が明示されている一方で,「(道のり)=…」や「(時間)=…」に関する言葉の式が見当たらないのは,学習指導要領に依拠しようという意図でしょうか.


「速さ=道のり÷時間」「道のり=速さ×時間」「時間=道のり÷速さ」で連想するのは,ある座談会での中島健三による「乗法・除法の適用の場を構造として捉えると,あのような形にまとめられるということです」という発言です.次の発言者にずいぶんと叩かれているのと合わせて,量,比の3用法―1965年の座談会よりで見てきました.
3用法という形では,その後,学習指導要領への記載がなくなりましたが,中島は「乗法の意味」(拡張を考慮した意味づけ)に関してはhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110003849391,また「かけ算の本質(構造)」に関しては昨年復刻された『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』で整理・提案をしています.
海外の状況については,かけ算・わり算でモデル化される場面をご覧ください.速さは「割合(Rate)」の一例としています.

(最終更新:2016-03-04 朝.タイトルを「速さ=時間÷道のり」から変更しました)

*1:本文は,このテスト問題をもとにして,授業を設計しています.最後の大問は「分速1.5kmで走る電車と,時速60kmで走る自動車があります」としてから,小問へと進むのですが,ここから先生は「1.5kmと60kmでは勝負がついたようなものだよね。それでは60kmの自動車が速いと書きましょう」(p.73)と言ってみると,「先生違うよ!」というツッコミが生まれ,なぜ電車のほうが速いかを,クラスで考える機会となる,としています.

*2:[https://www.bunkei.co.jp/catalogue/tosho/85.htmlによると,「書店や個人販売はできません」とのこと.

*3:何と! ATOKで「かんとう」と打ってもこの語が出てこない!

*4:もし「速さが2倍,3倍になったとき,道のりの変わり方を調べ,道のりの求め方を考える」も実施していれば,「時間が一定のとき,道のりは速さに比例する」を経て「道のり=時間×速さ」という式も成立するわけですが,そういった内容は見当たりません.