わさっきhb

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かけ算の順序が何の役に立つんですか

 全体として興味深かった内容ですが,太字の中に,なるほどと思った記述がいくつかありました.引き写させてもらうと:

一つの仮説として「役に立つ」という単語が「広く一般社会の役に立つ」のではなく「私の役に立つ」を指している

当初から「私は数学というものの存在で直接的に不利益を被った」ということへの皮肉や呪詛を唱えているだけ

数学の魅力を伝えたい全ての人がすべきことは、そもそも数学に否定的な個人の説得に資源を投じるよりも、もっと多くの人へ同時に数学を魅力を届けることができるような教材を作ったり解説記事を書いたりすること

 それで,はてブをしました.いつもならこういった記事には,そこから特徴的な箇所を取り出し,『 』でくるんで100字以内にしているところですが,この記事については「かけ算の順序が何の役に立つんですか」というコメントにしてみました*1
 「かけ算の順序が何の役に立つんですか」に対する,自分なりの答えは,「5円×8」に行きつきます.次の問題を考えます.

  • 「5円のものを8個買ったら40円」をできるだけ少ない字数で表しましょう.

 この問題,小学校の算数なら,「5×8=40」でしょう.さらに,「一つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」を前提とするなら,かけ算は読んだ人がすればいいということで,「5×8」の3文字にすることも可能です.
 しかしここで,「かけ算の順序」が通用しない人や環境(例えば外国の人に---「5円のものを8個買ったら40円」はその人の言語に翻訳した上で)において,「5×8」を見せると,「8円のものを5個」と誤解されてしまうかもしれません.
 そこで3文字はあきらめて,4文字で誤解なく表現するにはと考えてみると,「5円×8」と書けば良さそう,となるわけです.なお,「5×8円」は依然として,「5円のものが8個」にも「5個で単価は8円」にも解釈できる,曖昧な式です.「できるだけ少ない字数で」の観点で,パー書きの式(「5円/個×8個」「8個×5円/個」)は,より劣る解です.
 先ほど「「かけ算の順序」が通用しない」と書きましたが,これは厳密さを欠いています.言葉を増やすと,「『一つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数』と考える人も『いくつ分×一つ分の数=ぜんぶの数』と考える人もいる状況で,『5円のものを8個』をできるだけ短く,そしてできるだけ多くの人が誤解しないようにするには,『5円×8』と書けばいいんだよ」となります.
 ここまでの検討を通して,「多様性」「簡潔性」「曖昧性除去」といった要素・性質が見えてきます.情報工学そして高等教育に携わりながら研究や学生指導を行い,発表スライドや論文を磨き上げたりする際に,無視することのできないものばかりです.
 ところで「5円×8」には元ネタがありまして,『「小学算術」の研究』です.昭和50年代に出版されたものですが,著者は昭和10年より使用された緑表紙教科書の編纂に携わっており,そこで,3×2=6を「にさんがろく」と読むという乗数先唱を,「さんにがろく」の被乗数先唱に変更しようという,根拠の一つとして,「式に表す場合も 5円×8 というように,被乗数を先に書くのを常とするから,被乗数先唱の方が都合がよい」*2を挙げていたのでした.
 パー書きを含め単位表記については,式に単位(古いもの)にまとめてあります.「かけ算の順序」に関して,当ブログでの取りまとめとしては積に基づく乗法の認識について参考文献をご覧ください.曖昧性を意識するようになったきっかけの一つは,"And Tiffany, are you saying that those two number sentences can't be used to describe two different situations?"*3という,交換法則を学習する授業における教師の発問です.