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アクティブ・ラーニング発想を入れたTOSS体育の運動会・組体操指導

運動会企画 アクティブ・ラーニング発想を入れた面白カタログ事典

運動会企画 アクティブ・ラーニング発想を入れた面白カタログ事典

根本氏の単著ではなく,奥付の1つ前のページには,執筆者一覧として69名の名前が記載されています.
小学校(一部は中学校も)の運動会全般に関する事例集ですが,組体操にかなりのページをとっていることもあり,昨今の組体操批判への「TOSS体育」「根本体育」の解答と思ってよさそうです.まえがき(p.3)では,アクティブ・ラーニングについて2段落で書いたあと,組体操の状況を次のように記しています.

教師たちの最近の運動会実施への不安・不満として、次のような傾向が見られる。
①教師たちの組体操への危機意識の希薄さである。大きな技の指導が、突貫工事でされていて、保護者は不安と不信を持っている。自分の子どもも、けがをするのではないかと危機感がある。大技を披露して、子ども、保護者の感動を得るために危険な技が行われている。
そのため、子どものけがが増えてきている。子どもが安全に楽しくできる種目の決定を、子どもの発想やアイディアをとり入れて行うことが求められている。

この引用の直後は,「②」で始まっており,ある学校での,学年ごとの運動会にかけた時間が並んでいます.1〜5年は運動会練習全体と,そのうち「表現」にとった時間が記載され,6年は「表現」に替わって「組体操」となっています.6年だけ数字を書いておくと「24時間(うち組体操21時間)」とのことです.
さて,組体操はpp.96-119にまとまっており,執筆者は,pp.96-113は上川晃(三重県伊勢市立浜郷小学校),pp.114-119は東郷晃(滋賀県大津市堅田小学校)となっています.
上川氏執筆のところをかいつまんで紹介すると,はじめ4ページは心構え・準備などで,そのあとは1人技から10人技へと進んでいきます.高さに関して,3段タワー(最下段も立つ)・4段俵型ピラミッドの写真を見ることができます.当ブログで積極的に取り上げているクイックピラミッドについては,「組体操『6人技』3段ピラミッドの一気立ち」と題して,pp.108-109で解説されています.
執筆者が変わったところの見開きの最初(組体操「安全で学びある技」のみで、演技構成をする)では,その右側(p.115)に,組体操の安全性・危険性が表として整理されています.罫線の具合から,Excelで作成したものをそのまま図としたと思われます.表では,難易度(高・中・低)を行,危険度(低・中・高)を列にして,技名と,補助の人数が記されています.難易度も危険度も高い技として「ピラミッド全員→全員での崩し」「3段タワー(6人 3人 1人)以上の人数のタワー*1」「トラストフォール(人間起こし)」「55人ピラミッドなどの立体ピラミッド」を挙げています.
ピラミッドについて,「3段ピラミッド」と「足つき4段ピラミッド」が,難易度 中,危険度 中に入っています.3段はスタンダードな俵型か,それとも一気立ちのものか,明記されていませんが,両方と思われます.「足つき」について,完成形や作り方などは本書に見当たりませんでしたが,演者全員が地面に足をつくというのは非現実的で,おそらく下から2段目の人がつくというタイプ(変則俵型ピラミッド,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160619/1466333909)のことでしょう.
組体操は,ページが離れてpp.170-171にも,解説とイラストが載っていました.横長隊形の一つ「大橋」について,法則化由来であることが書かれていました.
ここまで書いていきまして,まず,3段タワーが事例(写真)で紹介されている一方で危険な技となっている点が,不可解と言わざるを得ません.また,まえがきの引用箇所では,文どうしのつながりに不自然なところが見られます.危険性やけが発生については,数量的な要素が見当たりません.それと,組体操指導でのアクティブ・ラーニング面のアドバイスは,ざっと見たところ,教え込みと「考えさせる」が大部分です.
まあそれらは,この本を隅々まで読み込み,教師・子ども任せの組体操ではこんな問題があるのだやってられないよと指摘する人に,託すとしましょう.2016年の運動会・組体操を企画する先生が目を通しておくには良い本だと感じました.


組体操以外では,「よさこいフラッシュモブ」(pp.80-81)が興味深い内容でした.「運動会の種目の中には加えておかない」「終わった後、何事もなかったかのように無言で各自の場に各自のペースで戻っていくことがかっこいい」も,大事なところです.

*1:「以上」ですので,6人+3人+1人の人数構成も含みます.そのほか,「馬3段(6人 3人 1人 下は馬)のタワー」は,難易度 中,危険度 高に位置づけられており,両方高の4つの技と同じように,危険な技であることを示す網掛けがなされています.