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小学校3年のかけ算・わり算文章題を対象とした作問学習支援システム

この論文では「モンサクン Touch 3」というソフトウェアについて報告しています.論文に掲載された図2によると,画面には「「80×3」でもとめる問題を作ろう」という作問課題,黒板を模して3つのカードを配置できる領域,そして8枚のカードが表示されています.カードをタッチパネルで操作し移動ができます.動作プラットフォームは本文中に明記されていませんが,この図は,Androidでの動作画面となっています.
3つのカードを配置できる箇所について,上から順に,「1つ分の数」「いくつ分」「全部の数」が左に添えられています.それぞれに合うものを,カード群から選ぶ必要があります.この図では,「1本あたり80円のジュースがあります」「ジュースを3本買います」「代金は?円です」の組み合わせ(のみ)が正解と思われます.
論文タイトルの「構造」についてですが,「一つ分の数×いくつ分=全部の数」を採用しています.また大日本図書の算数教科書を,参考文献に記載しています*1
算数教育の書籍で見かけない記述として,「存在文」と「関係文」があります.論文のp.61に例示されている「(a) 1箱あたりみかんが4こずつ入っています.(b) ?箱あります.(c)みかんが8こあります.」では,(a)が(量の関係*2を示したものであるため)関係文,(b)と(c)が存在文となります.このみかんの文章題は,4×?=8と表せますが,実際の計算(や立式)では8÷4=2であり,1つの関係文と2つの存在文として適切なものを選んで配置することで,かけ算だけでなくわり算の文章題も,記述できるというわけです.
評価,ではなく「実践利用」として,広島大学附属小学校3年生39名(乗除算文章題は学習済み)を対象とした実践内容を報告しています.プレテスト,モンサクンTouch 3の授業利用,そしてポストテストという流れをとっています.比較を通じて,「上位群は効果を測定することはできなかったが,下位群については正答率及び乗除算の作成数において有意な能力の向上が確認できた」(p.66)と結論づけています.
論文の中で2箇所,「かけ算の順序」関連の情報を見かけましたので,紹介します.図3は,黒板での作問の様子となっています.モンサクンTouch 3を使用することなく,黒板上で,式に合うカードを選びます.黒板の右下に,「これだと3×6=18になっちゃう」と読める箇所があります.また式の下には「6×3=18」ともあります.ただしこの一方が間違いでもう一方が正解,というものではなく,どっちも間違いです.もとの式は「9×6=54」であり,そこで「子ども1人につきあめを3こ持っています。」のカードを選択すると,お話に合わないことを確認している状況に見えます.
もう1つの「かけ算の順序」への配慮は,p.65左カラムにあります.段落全体を書き出します.

試験紙には先行研究同様,三種類のテストを用いた.問題解決テストは,通常の授業で扱われる乗除算の問題解決課題と同様である.問題構成は,乗算,等分除,包含除の物語から「いくつ分×一つ分の数=全部の数」を除いた5種類について,各単文を未知数とした5×3=15問となっている.この物語を除いた理由は,乗算については交換法則が成り立つためである.

「三種類のテスト」とは,上に書いた問題解決テストのほか,次の段落で解説されている情報過剰問題解決テスト,そして作問テストです.「ナニナニは全部でいくつあって,最初はコレコレ」を1つの段落にすることは,当ブログでも,自分で論文などを書くときにも,ときどき使用しています.それと「単文」というのは,上で例示した(a)(b)(c)の1つ1つを言います.等分除や包含除では,「1つ分の数」「いくつ分」「全部の数」とは異なる順序で,単文が配置されているものと推測します.
それで書き出した中身なのですが,「いくつ分×一つ分の数=全部の数」を評価用のテストでは採用しなかったこと,その理由として乗法の交換法則を挙げていることは,「かけ算の順序」への配慮と思わざるをえません.
もう一つ,問題解決テストの問題数の「5×3=15問」という表記ですが,直積に基づいています*3.5種類あって,それぞれ3問ずつなので,この式は「いくつ分×一つ分の数=全部の数」になっている,という解釈も一応できますが,いずれにせよ3年の学習内容を超えています.
当ブログで「かけ算の順序を問う問題」として収集・整理してきたパターンのほか,「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」のような逆思考の問題,また「1こ90円のシュークリームが、1はこに3こずつ入っています。2はこ買うと、代金は何円になるでしょう?」のような結合法則学習の文章題*4は,今回のシステムの対象外となることに留意しつつも,教育工学の成果として公表された査読付きの論文を,年の初めに読むことができ,嬉しく思います.


「モンサクン」について:

*1:「割合の三用法」を2.2節に明記し,小学校学習指導要領解説算数編PDFの前半のほうを,参考文献に入れています.

*2:算数の2〜3年の教科書で「あたり」を使うのが主流だとは,ちょっと思えないのですが,「どの箱にもみかんが4こずつ入っています」だと,「1箱あります」と組み合わせるのが不自然だからではないかと想像しました.あとどうでもいいことですが「箱」の漢字は3年で学習するのですね(学年別漢字配当表で確認.「個」は5年).

*3:単位をつけるなら,5種類×3種類=15種類⇒15問 です.

*4:3要素2段階の文章題もダメだよな,と思いながら最終章を読むと,「また,小学校4年生になると複数の演算を含んだ文章題を取り扱うことになるが」から始まり,成果発表済みのものを引用して,本文をしめくくっていました.