いきなりですが問題です.
1変数の実数値関数で,実数a, bに対して以下を満たす関数の例をそれぞれ日本語で答えなさい.ただし「恒等関数」「定数関数」を答えにしてはいけません.
以下はTeX記法ではなくプレーンテキストで書いているところがあります(はf1となります).恒等関数はf(x)=x,定数関数はf(x)=cと表すことができます.
4つのうち,もっとも簡単なのはf2です.これは線型写像における加法性を表した式です.そこでf2に当てはまるものとして「比例関数」が考えられます.f2(x)=x,だとこれは恒等関数になるので,f2(x)=2xとしてみます.すると,f2(a+b)=2(a+b)=2a+2b=f2(a)+f2(b)であり,上に書いたf2の関係式を満たします.次に移る前に,このf2の関係式は,「足し算してから関数を適用した結果は,それぞれに関数を適用してから足し算した結果と等しい」と読むことができるのに注意しましょう.
次にf3を考えることにします.「掛け算してから関数を適用した結果は,それぞれに関数を適用してから掛け算した結果と等しい」となります.f2は比例でしたが,f3はその反対ということで,「反比例関数」を割り当ててみます.具体的にはf3(x)=です.このとき,f3(ab)===f3(a)f3(b)です.うまくいきました.
さかのぼってf1を見ます.「足し算してから関数を適用した結果は,それぞれに関数を適用してから掛け算した結果と等しい」です.これまでの授業でときどき使用してきた,2のx乗を,使用してみましょう.「指数関数」です.f1(x)=とすると,f1(a+b)===f1(a)f1(b)です.途中で指数法則を使用しました.問題に書いた関係式が,成り立っています.
最後にf4です.「掛け算してから関数を適用した結果は,それぞれに関数を適用してから足し算した結果と等しい」ですので,足し算と掛け算が,f1の関係式と反対になっています.それでは,指数関数の反対で「対数関数」にしてみましょう.f4(x)=とします.これで,f4(ab)==+=f4(a)+f4(b)です.よかったですね.
「関数の例をそれぞれ日本語で答えなさい」という出題でしたので,f1からf4まで順に「指数」「比例」「反比例」「対数」が,もっとも簡潔な答えとなります.ただしこれらは,それぞれの式を満たす関数の「例」です.少し検討すると,次のように表すことができます.
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いずれもcは定数です.またcは0でも1でもないとします*1.f3の式が大きく変わりましたが,c=-1とすると,f3(x)はx分の1ですので,は反比例を含んでいます.先ほど「反比例」を答えにしましたが,「べき乗」も答えになるのでした.
セキュリティの授業の最初に考えてもらい,多項式時間や指数時間,そして「P≠NP予想」へとつなげていきました.
ところで,今回対象としたf1からf4までは,いずれも準同型写像です.これらを一つの式で表すにあたり,スライドには「E(m1)●E(m2)=E(m1○m2)」と書き*2,「●と○は(同じまたは異なる)演算子」という注意書きを添えましたが,なんとも不格好です.
*1:cが1のとき,f1(x)=1となって定数関数です.f2(x)=xは恒等関数です.f3(x)=xも恒等関数です.ではf4が恒等関数または定数関数になるのかというと,は定義されません.https://www.quora.com/What-is-log_1-1の回答にある==が興味深いです.
*2:Eは暗号化関数です.今年度,新たにスライドを作るにあたり参考にした書籍には,「E(m1)・E(m2)=E(m1+m2)」と書いてあったのでした.