「えっと,うえの子にすえの子よ…」
「なに,パパ?」
「なになに?」
「我が家ってあんまし,トランプせえへんなあ」
「うーん,せえへんなあ」
「だって,すぐなくなるもん」
「ああ,たしかに,1枚でもなくしたら,遊ばれへんもんもあるしなあ」
「ババぬきとか」
「ばばぬきぃ!?」
「すえの子ちゃん,だってな,あと2人だけになって,1人がババだけ持ってて,もう1人が何か持ってたらな…おかしいやんか」
「あっ,そういうことか!」
「そう来たか,まあそうやな.そういえばババ抜きで思い出したんやが…」
「何かあるの?」
「なになに?」
「あっちのおばあちゃんと,トランプで遊んだこと,あるか?」
「パパのママ?」
「そうやが」
「うーん,ないなあ」
「あたしもぉ」
「そうか…あっちのおばあちゃんが,ババ抜きに入ったら,ゲームが変わるんやぞ」
「え! 何それ!?」
「どない変わるかを言う前に…ババ抜きっちゅうのは,ジョーカーを持ってたら負けやんか」
「そうやけど」
「んで,自分はジョーカーを持っていますっちゅうことを,一緒に遊ぶ人に,伝えたらあかんやろ」
「あかんよ」
「あっちのおばあちゃんはやなあ…思いっきり,言いよるねん」
「え! どういうこと!?」
「あっちのおばあちゃんが,1枚取ったのがな,ジョーカーやったら…」
「…」
「じょーかーって,ばばのこと?」
「すえの子よ,せやで.あっちのおばあちゃんな,『ああぁ…』って,大げさに泣きよんねん.ジョーカーが来たっちゅうてな.ほいでみんなに伝わってまうねん」
「泣くの?」
「うそ泣きやけどな.さらにやな,手札に入れてたジョーカーを,隣の人が取ってくれたら,あっちのおばあちゃんな,晴れ晴れした表情になって,歌を歌いよんねん」
「そんなんするの!?」
「まあ,昔むかしの話や.パパ自身も,あっちのおばあちゃんとババ抜きっちゅうのは,親戚が集まったとき,せやなあ20年以上はもう,やってないんやけどな」
「昔なんや…」
ママから呼ばれて,うえの子とすえの子がママのほうへ行き,パパは一人で振り返る:すえの子は,発言数こそ少なかったものの,きちんと相づちを打つし,トランプのカードがすぐなくなると指摘するのも,ジョーカーとババが同じか確認するのも,タイミングよく言うてたなあ….