「さきの子よ,おいで~」
「来んのか.聞こえるところにおるのはわかってんねんけど」
「さきの子よ,あのな,すえの子がトマトをひと切れ残して,あっちの部屋にいったんやが,食べにおいでや~」
「(駆けつけて)えなになにトマトあるの! いただきま~す!」
「お前,わかりやすいなあ」
「え? 食べたらあかんかったの!?」
「ちゃうがな.トマトはええねん.さきの子よ,お前がさっきまで座ってたとこの前の,お茶碗や…」
「…」
「ご飯,丸ごと残してるがな.しっかり食べとかんな」
「ご飯,食べなあかんねんで!」
「それいや」
「『白ご飯,大好き』のさきの子やのに,いやって,どないしたん?」
「白くないやんそれ」
「白ぉない? …ああ,ふりかけ,かかってるなあ」
「ふりかけがいややねん!」
「ふりかけのかかったご飯が,あかんのか?」
「そうじゃなくて…そのふりかけが,いやなの!」
「このふりかけ? 見た目が? におい? 味?」
「どれも!!(立ち上がる)」
「ああ,あっちに行ってしもた」
「味がおかしいってどういうこっちゃ.箸でひとすくいして,一口.…」
「パパ,どう?」
「あとの子よ,少ない一口分を,よく噛むことで,気づいたんやが,このふりかけ,味が薄いな」
「あ…言われてみれば」
「色も,黒というか暗い青色というか…黒単体やったら,昆布が思い浮かぶが,ちょっとちゃうんよなあ,このふりかけ」
「さきの子ちゃん,結局,食べやんかったん?」
「あ,ママか.さきの子なあ,トマトで誘って,食うよう言うたが,あかんかったなあ…」
「そんだけのご飯,捨てるわけにもいかんねんけど…パパ,食べてくれる?」
「いや,ちょっと量が多いな.ところで,さきの子は,白ご飯ではなくふりかけのほうを,ずいぶんと嫌ってたんやが,思い当たることある?」
「そのふりかけねえ,あっちのおばあちゃんが,写真と一緒に,送ってくれたんよ」
「ありゃ,そうやったんか!」
「ご飯にかけて食べてねって,手紙が添えられてて」
「そっかぁ…うーん,色が暗いのも,味が薄いのも,健康を重視して,選んだんかなあ」
ご飯はラップで包んで三角おにぎりにし,2階に持って行ってすぐ食べてしまいました.