わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

式に単位を書かせるべきか(2)

はじめに2つ,事例を紹介します.まずはhttp://www.lekton.co.jp/index.php/-about-76/152-2010-06-10-02-17-13.html?start=1です.内容も興味深いのですが,本日は単位に着目しています.このページ,式を記述する際に『28個÷4人=7個/人』『28こ÷4人=7こ/人』『28こ÷4こ/人= 7人』『(引用者注:誤答例として)12.7g÷3.5m』『12.7g/m×3.5m』と,単位付きになっています.
もう一つは教科書会社のトップ「東京書籍」に言わせると、「5×3≠3×5」らしい。 - 小学校笑いぐさ日記です.かつて読んだ記憶もあるのですが,本日の駄文にゅうす経由で,読み直す機会を得ました.教科書での立式はすべて単位なしなのが確認でき,ブログ主さんの書き方もそれにならっています.

3種類の考え方

「(児童*1が)式に単位を付けるよう,指導すべきか」ではなく「(我々おとなが)式に単位を付けるべきか」に関して言うと,次の3つの考え方があるように思えます.

  • 《無記載派》:式には常に単位を書かない
  • 《厳密派》:式に単位を書くときは,単位が合うように書く
  • 《無頓着派》:式に単位を書くときは,前後関係に合うように書く

なお,「式には常に単位を書く」という分類は,設けないことにしました.途中の式計算では,単位を落とすことが自然に思えるからです.どうしても「式には常に単位を書く」という人がいれば,我々はおとなですので,微分積分,行列やベクトルを使った問題解決の中でも一つひとつやっちゃってくださいと言うしかないかなと思います.
3つの派ですが,幸いにも一つのエントリで全部書いているものがあります.自分の「×」の使い方 - わさっきです.自分語りで,すみませんね.各派に対して2つずつ,例を拾ってみます.

  • 《無記載派》の例:3×3,50×60×70
  • 《厳密派》の例:2人/週×4週=8人,728mm×1030mm
  • 《無頓着派》の例:2人×5班+1人×1班,6×2=12枚

私自身,より正確には,ブログで書くときの自分のスタイルは,間違いなく《無頓着派》です.《厳密派》の例も,文脈上それが適切に思ったからそう書いたのが実情です.なお,単位は無頓着であっても,順序に関しては,「1つ分の大きさ」を被乗数(かけられる数,×演算子の左オペランド)とする習慣がついています.

以下は,標題の「式に単位を書かせるべきか」,あるいは「(児童が)式に単位を付けるよう,指導すべきか」に立ち返り,それぞれの派の課題を考えることにします.ただし語句表現としては,児童向けではなくおとな向けである点についてご容赦ください.

《無記載派》の課題

式において,それぞれの数字や演算子,部分式,式全体がどのような意味になるのかを,よく考える必要があります.
問題を解く際には,まず式として立てたとき,そして答えが妥当か確認(検算・吟味)するときに,チェックすることになります.先生ほかが採点するときにも,チェックが入ります.
その手間は,「必要性」といってもいいですし,「(削除・低減すべき)コスト」とみなすことも可能だと思います.
数字に気を取られ,あるいはかけ算を使えば求められるという中途半端な知識では,正解に至らなかったり,混乱が発生したりしそうです.事例は,15こあればいい,じゃあないんだよね - わさっきで3つ,挙げています.

《厳密派》の課題

上述の,チェック時や,式を介したコミュニケーション時のコストを低減することを考えると,立式時に単位を添えて書かせるのは有用そうに思えます.
《厳密派》を小学校教育で実践する場合,一番の問題点は,「1つ分の大きさ」の単位に必ず含まれる「/」の存在です.さらに,かけ算や,『28こ÷4こ/人= 7人』という割り算によって,値を求めれば,単位の「/」ほかが消えることを,いつどのように指導し,問題を与えて習熟させればいいのか,正直言って,答えが思い浮かびません.
それと比べれば深刻度は下がりますが,単位量当たりの値と,単位量当たりでない値との単位変換が必要になるのも,気になります.同語反復のような問いですが,「時速60kmの車は,1時間に何km進むでしょうか」という問題を考えます.単位を強調して書き直すと,「60(km/時間)の車は,1(時間)に何(km)進むでしょうか」です.《厳密派》なら,「60km/時間×1時間=60km」として求めることが要請されます.例の問いも,「3こ」という単位付きの数量から「3こ/まい」を求めることとし,「3こ÷1まい×5まい=15こ」とする必要があるのでしょうか.

《無頓着派》の課題

1点挙げれば十分でしょう:「2人×5班=10人班 ですか?」

自分はどういう立場をとるか

それぞれに課題を出した上で,これから自分はどうしようと思っているかについて,書くことにします.その際,「自分はどう書くよう心がけるか」「自分の子どもにどう教えるか」「小学校教育ではどうするのがよいと考えるか」の3つの切り口があるように思います.
自分については,今後も《無頓着派》をとります.読み手*2を想定して最適なものをその都度選び,結果的に表記が《無記載派》あるいは《厳密派》のものになることがあってもいいかなと思います.「自在派」と呼ぶべきかもしれません.
子どもが疑問を持ったら,まずは教科書やプリント,先生の言ったことを確認することから始めるでしょう.「/」を使った単位の表記は,ここ数年で主流になるとは思えないので,ミスを減らす便利な方法として,こっそり(学校では使わないことを約束させた上で)教えるかもしれません.
小学校教育は,先生の指導を信頼したいと思います.もし担任の先生が算数指導は苦手だとしても,学年や学校全体の中で,バックアップがなされていると期待します.もし娘が通う小学校の中で,今回のような論争が起こったら,野次馬参戦したい気もします.

*1:例の画像から始まる論争では,「児童は何を学んだ状態で解くことになった設問か」の観点が不可欠と考えていますが,今回は,学年や学習状態の限定をせず,「小学校教育のどこかで身につけてもらうとして,どうすればいいか」で検討しています.

*2:未来の自分を含む.ってこの表現,手垢がついたなあ….