わさっきhb

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AB型とBA型

そこでは,《題意による正答》は,問題文中の数字を逆順にしてかけ算で表す(「逆順」と呼びます)という操作をしています.もちろん,問題文から数字を2つ取り出し,その順にかけ算で表すことが要請される問題(「正順」と呼びます)を先に指導しているはずです.ここで,授業の中で正順と逆順をともに指導してから,逆順の《問い》を出し,どっちで書くべきか確かめさせている,という可能性が考えられます.その流れだと,トランプ配りを根拠とする余地がまったくなくなり,バツにされます.11月27日のエントリをはじめ,以前に当雑記上で検討していたときは,正順ばかりを教えてから逆順の問題を出したというシチュエーションを念頭に置いていました.

テストは教育の目的か手段か

「正順」という言葉がgoo辞書で見つからないので,改めて,定義することにしました.
《AB型》*1:文章題で,A,Bの順に数が現れ,A×B=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
《BA型》*2:文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
1972年の問題を使うと,「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」はAB型,「6人のこどもに,1人4こずつみかんをあたえたい.みかんはいくつあればよいでしょうか」はBA型です.昨年の,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」もまた,BA型です.
なお,ここでは文字のみによる文章題のみを検討することとし,机のかけ算で取り上げた,図から読み取るタイプの問題は対象外とします.
これをもとに,冒頭の引用を言い直すと,次の2つの教え方が指摘できます*3

  • 教え方1: かけ算の導入で,先生はAB型の例を見せます.児童はAB型の問題に触れながら(学習時間に応じて,1個から複数個),「1つ分の大きさ」をAに,「いくつ分」をBにすることを理解します.その後,先生は『BA型』を解かせます.何割かの児童は,出現順でA×B=Pと書き,何割かは,「1つ分の大きさ」と「いくつ分」を押さえた上で,B×A=Pと書きます.先生が解説します.
  • 教え方2: かけ算の導入で,先生はAB型の例を見せます.児童はAB型の問題に触れながら(学習時間に応じて,1個から複数個),「1つ分の大きさ」をAに,「いくつ分」をBにすることを理解します.その後,先生はBA型の例を見せます.この場合も,「1つ分の大きさ」と「いくつ分」を問題文から読み取って,「1つ分の大きさ」×「いくつ分」=「全体の大きさ」とすることを言います.児童は,BA型の問題に触れます*4.それから先生は,かけ算で式を立てられるようになったか確認のテストで,『BA型』を出します.

そして,1972年の件でも,昨年の件でも,教え方1または教え方2で1箇所ずつ書いた『BA型』として出題されたのではないか,と考えたのでした.
どちらの『BA型』も,形成的評価のための出題の一つに位置付けられます.ただし,教え方1のほうは,診断的評価に近く,教え方2は,総括的評価に近いように見えます.
教え方1の『BA型』が診断的評価であるとしたのには,補足が必要でしょう.そこでは,“かけ算で適切に式(「1つ分の大きさ」×「いくつ分」=「全体の大きさ」)を立てられること”ではなく,その一部である“BA型に対して,かけ算で適切に式(B×A=P)を立てられること”を目標とします.したがって,戸惑ったり,A×B=Pと書いたりする児童がそれなりにいるのを想定し,その後の指導に役立てるための出題となります.このシチュエーションで,プリントのバツ*5を見て,「なんで間違い!?」と親が憤るのは,そういった複数の学習目標があることを認識していないためです.
教え方2のポイントは,児童からすると,AB型・BA型ともある程度の数の問題を解いた上で,BA型の問題を見て解くということ,それと,「読み取って」のところです.学年が上がれば,創意工夫をしないと正解にたどり着けない問題(学校の問題や入試などに限らず)もあるでしょう.しかしAB型とBA型の文章題を通じて,かけ算の立式を学習している間は,トランプ配りのようなことは考えなくていいわけです.そんなことをして,BA型に対してA×B=Pと書いたところで,単純にAとBを取り出してかけ算したのと,同一視されてしまうのです.
それでは,トランプ配りや,交換法則を学んだ後なら,BA型に対してA×B=Pという式でもいいでしょうか? それに対しては,優しく言うなら「かけ算を勉強したとき,どんなふうに教わりましたか?」,突き放すなら「2年に戻れ!」とおっしゃる,先生がいそうです.学年が上がっても,何を目的とした出題なのかという過去の視点,その式を書くことで誰にどのように伝わるだろうかという未来の視点を踏まえて,いわば神の視点で検討したいところです.
次回は,「先生がいそう」などの,100%そうなるとは言えない事態・状態に対して,児童や,児童の学習をサポートする側はどう行動すればよいかを議論する予定です.それで,遠山氏の1972年の記事に対する,私なりの検討の主要部が終わることになります.

*1:《A×B=P》と書く方が,より分かりやすいかもしれません.字数を減らしたいという意図で,《AB型》としました.

*2:すぐ上の脚注と同様に,《B×A=P》と書けます.

*3:そういう教え方があると,現職の小学校の先生から教わったわけではなく,ここ数か月,目にした,主に書籍の問題文をもとに想像し,書きました.「先生」を「私」,「児童」を「我が子」に置き換え,「何割か」を人数ではなく確率に関することと解釈すれば,学校外でも利用可能な指導法となります.

*4:宿題として,かけ算の文章題を何問か解く,ということもあるかもしれません.そこでは,AB型とBA型が混在しています.もちろん,一つの問題に,AB型とBA型を含むというのではありません.

*5:『なお筆跡からは,赤を書いたのが,先生ではなく解答した児童自身という可能性も,取り除けません.』と記したことがあります.