わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

教師の学習指導案は,プログラマの何だ

学術面には目をつむり,「現場の認識を変えたいんだ」というのであれば,まずは学習指導案(指導案)を通じて,その認識を確認することでしょう.かけ算に限定しても,PDFを見つけるか,本を買うかして,50例ほど読めば,何を既習とし,その学習内容が今後どのように活用されるか,また一つの出題に対して典型的な求め方にはどんなものが想定されるかを,知ることができます.そして,こういう企画立案をするのとしないのとで,授業の進行,そして児童の理解に,大きな違いが出てくるのだろうなとも思います.

意識調査しないの?

当該エントリで示していますが,私自身は学習指導案を書いたことはありません.小中高などの教員免許も,持っていません.大学の,90分15回プラス試験の担当授業に関しては,シラバスは責任をもって作成・改訂していますし,各期の授業の前に,非公表の計画メモもつくっています*1
それでも,「かけ算の順序」の話を聞きつけ,現状把握と既存知識の収集・整理を試みようとして,「かけ算」の学習に焦点を絞り,学習指導案を読めば読むほど,文書に共通して見られる要素---学ばせたいことの共通項---があるのが分かります.具体的には……長くなりそうだし,そこが本題ではないので,後ろに回すとします.


先月27日のリリースをしてから,自問しました.
教師にとっての学習指導案は,プログラマにとっての何だろう? ソースコードか? じゃあ授業は,起動したプロセス?
…どうやら違うようです.
学習指導案にもっとも近そうなのは,セットアップの手順書です.
自分の経験を言うと,Linuxでサーバとして稼働させる際の,実行コマンドのリストが,真っ先に挙がります.それと,Windowsマシンを新規に購入したときに書く,導入ソフトウェアの一覧も該当します.
過去のエントリから,一つずつ:

コマンドリストにせよ,ソフト一覧にせよ,別のWindowsマシンのNTEmacsでつくり,小さな一つの作業が終われば,行の先頭に印をつけます*2.メモのファイルをターゲットマシンに送れば,「別のWindowsマシン」はお役ご免です.
「教師の学習指導案は,プログラマのセットアップ手順書」とすれば,教室の児童に対応するのは,ターゲットマシン,すなわち目の前の*3コンピュータとなります.
こちらからの指示において,手順前後があると,それが理由でうまく伝わらない,要は失敗することもあります.「手順」の設定は大事です.そのためには,切り貼りや組み替えが容易に行えるようなツールが不可欠で,先生方ならWordでしょうし,自分の場合はEmacsでもいいしVimでもいいけれど,要はテキストエディタです.
合わせて,一連の手順を実施する前に,どんな状態(CPU速度,記憶容量,有線か無線かなど)であり,何がインストール済みなのかを,把握しておきたいところです*4.とはいえその認識が,根本的または微妙に間違っていて*5,急きょ,方針転換を余儀なくされることもあります.
インターネットからのダウンロードに時間がかかるのは,児童みんなが,ある問題にうんうんうなって,期待する答えまたは方針を,誰も出してくれないような状態でしょうか.
あと,「できる児童」は,どうでしょうか.これは,「ハイスペックのマシン」に対応します.ハイスペックだけど,モニタと相性が悪くて800x600の環境のとき,Windowsでの作業が思うようにいかないこともあります.
そんなこんなと,今風に言えば「想定外」のトラブルは起こり得るのですが,それでもセットアップ手順書はつくるべきです.コストをかけるだけの利益はあります.
事前にチェックして,本番を効率良く進められ,あとで計画通りに進んだか,振り返ることができます.初めは苦労したり,思いもよらなかったことに多数,直面したりするとしても,いろいろなシーンで手順書をつくり,実施していくうちに,手間や不確定要素が減っていきます.そうして蓄積した文書は,将来,自分または関わりのある人が,同じようなことをするときに,役に立つことでしょう.
はじめは思うようにいかないとしても,何をしたら何が返るかが分かってくるとともに,定評のあるソフトウェアをどんどん入れることで,デスクトップの画面や,コマンドを実行したりしたときの応答が,自分好みの快適なものになります.愛着,ですね.まあ,教え子を先生の「自分好み」にするのは,小学校でも大学でも,よく注意しないといけませんが.


ではここで,学習指導案に見る,第2学年で学習する「かけ算」の共通項を.
長方形的配列(アレイ図,ドット図)で,「a×b」の形と「b×a」の形の式を発見させるのは,ほぼ当たり前です.長方形的配列とみなすには「欠け」があって,おはじきなり丸なりを移動させたら,かけ算の式で表せるだとか,加減算と組み合わせて,分解式または総合式を書かせるというのも,よく目にします*6
かといって紋切り型ではなく,文章題として与える,かけ算の式にできる場面には,それぞれ凝らしているなあとも思います*7.式に単位を付けるか否か,付ける場合にパー書きを採用するか否かで,類型化ができ,それぞれ少なからぬ数の文書があります.
《BA型》の出題もよく見かけまして,Webで取得したコンテンツであれば,そのたびにはてブしています.そこでの正解は,「B×A=P」の形のみばかり*8.数字の現れる順に「A×B=P」と書くのは,「一つ分の大きさ」と「いくつ分」が分かっていないとなります.
「a×b」「b×a」がともに正解になるケースも,数は多くありませんが存在します.書籍では,出題例で《複数解》の出題をご覧ください.また,もう少し,書きむしるか(8. お菓子でかけ算)で長文を綴っています.そういったケースでは,問題文に配慮がなされていますし,授業においてはそれぞれの式で「一つ分の大きさ」と「いくつ分」が何になるか,児童に考えさせるようになっています.
なのですが,《AB型》であれ《BA型》であれ,文章題を通じて,どちらでもよいと結論づける(「まとめ」として児童らに理解させる)という学習指導案は,いまだに見かけません.授業中に,複数の「配り方」があることを確認するような,2年生のかけ算の学習指導案も,発見できていません*9

*1:そしてたいていは企画倒れに終わります.

*2:授業において,学習指導案の通りに進んでいることを,チェックをつけて管理するというのは,難しそう.

*3:野暮を承知でツッコミをすると,リモート接続のサーバということもまあ,あるのですが.

*4:この把握作業は,教育においてはレディネステストとなります.

*5:依存するソフトウェアやライブラリが最新のバージョンだと,インストールしたいものがうまくインストールできない,という相性の問題も,ときどき目にします.TortoiseSVNの開発版を入れてしまって,半日棒に振ったのも,今ではいい思い出です.レディネステストの正解率がいいので,目標を高く設定してみたら,正解していたのには特別な理由があったからで,本時の授業が案の通りにいかない,というのも,教室でそれなりにあるのでしょうね.

*6:私自身が最初に知ったのは,Webではなく本から:山梨のケース,新潟のケース

*7:これが,99qg制作のきっかけとなりました.

*8:同月18日追記:第3学年3組 算数科学習指導案p.3では,「ジュースのかんが6つのテーブルの上に7本ずつあります。かんはぜんぶで何本ありますか」に対して「7×6」を誤答とし(93.7% 30人),課題として「かけ算の意味まで確実に理解している児童は、ほとんどいない。問題の中に出てくる数字を順に並べて式にしている児童が大多数である」とあります.この文書外の《BA型》の正解率から想像するに,「6×7」と書いたのが6.3%なのでないかと思われます.

*9:もちろん3年生になれば,わり算の包含除・等分除で目にします.その一方で,かけ算の前の「2とび」に関して,『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66には「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」という指示が入っています.