わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと

雑報その2です.その1は,トランプ配りは教育上有害です.
本エントリのタイトルは,これでちょっと書こうとして,別の話題になってしまい,この見出しだけ(タイトルオンリー)にしようかと思ったけどそれも分かりにくいので,エントリのタイトルに移動させたというものです.

《AB型》,《BA型》,《B型》

書店ほかで,小学校2年生向けの算数の解説書・問題集をまた調査しました.
問題集は,《AB型》のみというのがかなりありました.新学習指導要領になってから,すなわち2009年4月以降の解説書・問題集で,「《AB型》のみ」と「《AB型》も《BA型》もある」のは,比にして2:1くらいかなと思いますが,あくまで私の体感ですし,過去のと比較するのも困難です.
書店ではないのですが,ダイソーで売られている問題集は,何冊か目を通した限り,《AB型》のみでした.
ということでいま,次のような仮説を立てています.文科省で,かけ算の順序について指導していないという方針は,《AB型》に正しく答えられるようになればよいのであって,《BA型》が解けることは要請していない,という意味なのではないかと.
証明は容易ではありませんが,書籍や,ネットの掲示板を見ながら,これからも探っていくことにします.
なお,交換法則については,現在の学習指導要領解説に基づくと,1.2×6の計算は第4学年で,6×1.2の計算は第5学年で学習すると読めることなどから,その適用には抑制的であることを書き添えておきます.
 
それと別に,次の出題形式を知ることができました.
《B型》:文章題で,Bに関する記載はあるが,Aは問題文以外からその値を定め,《かけ算の原則》に基づきA×B=Pの形で式を立てることが期待される問題.
例題を一つ…4匹の蟻の足の数は全部でいくつですか.

逆BA型?

《BA型》なのですが,その逆バージョンとでもいうべき問題を見かけました.

算数好きにする教科書プラス坪田算数ワークブック2年生 (TEXT BOOK PLUS)』p.59です.解答はp.149にありまして,p.59を縮小して,赤字で,「8」「3」の順にカッコに数字が入っており,ページ右余白には,次のように補足が書かれています.

[かくにんもんだい]
「3グループで1チーム8人」とまちがえやすいけれど,3×8の式があらわしているは,「3人の8グループぶん」だね.

この本で《BA型》に分類できるのはこれだけで,かけ算のはじめの中で最後の問題です.「確認問題」というよりは「発展問題」のようにも見えます.
なお,表紙に名前の挙がっている坪田耕三氏は編者であり,奥付を見ると,2年編集担当1人と,執筆者が十数人います.彼ら彼女らのコンセンサスのもとで,1問だけ書いた,と見なしていいのでしょう.

Re: 机のかけ算

上記の本を,もう少し読みます.
かけ算の立式は必ず一通りなのかというと,そうではなく,p.59の上部には,「ロッカーを入れるところの数」を出題しています.そこには「3×5」と「5×3」の2つを答えとして書くことになっていて,やはりp.149に解説があります.
連想するのは,机のかけ算です.ちょっと数量を変えまして,

「□」を,1台の机としたとき,次のように並べると,机はいくつありますか.式と答えを書きなさい.

□□□□
□□□□
□□□□
□□□□
□□□□
□□□□

としたときには,「6×4=24」と「4×6=24」をともに正解とし,2冊で取り上げた

「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」

については,「6×4=24」のみを正解とする,というのが,かけ算指導の主流と言ってよさそうです.
違いを,言葉で説明してみます.出題において,「1つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記されているか,図だと囲い込みがなされているならば,それを被乗数とした式にしなければならず,その場合,被乗数・乗数を反対に書くのは正解として認められません.一方,特に図から式を立てる際,「1つ分の大きさ」が2つ見出せるときには,交換可能な2つの乗算式がいずれも正解になります.
なお上記の「正解として認められません」というのは,「バツになります」ではありません.「問題集にはそれが正解として挙げられていない」の意味であり,そこは逆にしても差し支えないという信念の先生が使えば,問題集の解答を機械的に適用するのではなく,マルとするでしょう.
囲い込みに関しては,山梨のケース,新潟のケースで事例を挙げていますので,気になる方はどうぞ.

本棚

小学校の指導で,「1つ分の大きさ」を児童に探させるのは,『かけ算とわり算 (子どもを賢くする―よくわかる算数の授業)』pp.39-41に書かれていますが,「×を使った式」を探させるというのは,見かけません.
まず,バツの意味は取り除かないといけませんが,それは簡単です.あと,数や数量でないものを置いて,かけ算の式で表すというのも,笑いながら取り除くとしましょう.
問題は,多種多様なかけ算表記を並べたときに,「1つ分の大きさ」になる方が,かける数,すなわち「×」の右に現れる事例がかなり出てきそうなことです.
私自身も科研申請の乗算で一例を挙げています.ところで,数量×単価と書くのは,簿記の影響かなと思い,Googleでちょっと調べたのですが,確証は得られませんでした.単価を左に書く例も見かけましたし,表にすれば,「×」そのものが現れません.
小学校での調査課題に話を戻して,「いくつ分」×「1つ分の大きさ」と解釈できる事例が多数見つかったとしても,もちろんそこから,「1つ分の大きさ」と「いくつ分」は,どっちをどっちに書いてもいいとは,言えません.
それぞれの---企業などの内部で行われると想像できる,事前チェックを経て,公表されている---情報は,それぞれの値がどういう意味なのかが表記されているものです.
しかし宿題として小学生が探すと,そういった注意書きまで目が届かず,「×を使った式」を一つかたくさん見つけて,宿題できた〜♪となりそうです.
実はここからが本題なのですが,Webで見る寸法の表記です.
特に注意書きがなく,三つの数値が「×」で仕切られた寸法の表記は,順に幅(width),奥行き(depth),高さ(height)になると,個人的には信じ込んでいたのですが,そういうわけでもなさそうなのです.家具と電子機器で,2つずつ挙げます.なお,「//」は改行されていることを表します.

まあそれぞれ情報が添えられているのでいいのですが.
リストの最初に挙げた本棚,倒して,幅×奥行き×高さを85×29×47にして使用することは可能だけど,いろいろ置いて,重みに耐えきれず破損してしまったら,PL法の対象外なんだろうななんてことも,妄想しました.

何じゃこの掲示板は

昨年11月下旬にFAQを作ろうと思い立ったあたりから,掲示板やブログコメントへの書き込みは,しないようにしました.
理由をいくつか並べてみます.「学習者(単独,クラス=集団)への配慮が乏しい」「問題*1を指摘すれば十分という意思がうかがえる書き方が見られる」「長い間議論されているというのに,そのまとめページまとめサイトがない*2」「本あるいは基礎資料の指摘がほとんどなく,前提が共有されないまま議論をしている」,などなど.
この段落だけ脱線しますが,もし,かけ算の順序をめぐる論争で基礎となる資料が何かを尋ねられたら,きっかけは『遠山啓著作集数学教育論シリーズ 5 量とはなにか 1 (1978年)』,現在の指導デザイン事例*3として『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』,事例を離れ,教育活動の基礎(の一つ)として『教育評価 (有斐閣双書)』,そして教科書や問題集の共通的な前提となる『小学校学習指導要領解説 算数(2)』を挙げたいと思います.
最近目にして,ぎょっとなった掲示板は,掛け算の順序(ID:2045894) - インターエデュです.
最初の投稿を見て,思ったのは:

  • http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110210/1297279739#cのことだな.http://sudahato.jugem.jp/?eid=4#commentsもあるし.麻雀牌といえばhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110123/1295727822
  • 「先生」って何だ? 俺は大学教育の一端は担っているが,小学校の教育については物好きなアマチュアでしかないぞ.中学受験の掲示板に「先生」と書いて,誤解されるとか思わないのか?
  • 問題1(第1問)から14×100=1400,問題2(第2問)から100×14=1400を立てて,結果が同じである物を視点を変えて,14×100=100×14という式を導き,交換法則を確認する一事例として,2つの問題を取り上げるというのなら,文句を言う人はいないだろうに,「並び方によって マル と バツ が入れ換わるのは変じゃないですか」ってそんな路線をとって何をしたいんだ?
  • 「総数を,どのような状況で算出するか」のプロセスに関して無頓着,というか恣意的.いろいろな考え方を発見して授業中などで皆と共有する状況と,採点されることを意識してどのように解答する(一つの解答を記述する)かを決める状況とで,とるべき行動が異なるのを無視している.

読んでいって,特徴的なのを抜き出します.なお,改行をくっつけたり,丸囲み数字をカッコ書きに変えたりしています.

【2046067】
どのように置かれているかにかかわらず
 100(本) × 14(種類) = 1400(本)
とも言えるのではないでしょうか?

単位に着目するなら,最初の投稿(【2045894】)と照合したいところ.

【2046152】
「文章題を解く」上で重視されているのが
「答えの数字があっていれば良い」だけではなく
「与えられた文章から『いくつずつ、何こぶん』を読み取って立式しているか」
だからではないでしょうか。

引用しないけど解き方を含め,明快な解説.
これを踏まえ,「『いくつずつ,何こぶん』を読み取るとはどういうことか」を議論できればいいのだけど,「『いくつずつ,何こぶん』は解釈によって変わる」と持っていこうとする人がいるのが世の常で.

【2046522】
>ひょっとして、ご父兄対象の勉強会にご参加になってお持ちになった疑問なのでしょうか。
.
 保護者会ではなく、ネットで調べて見た例です。
http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110123/1295727822#tb
 算数の時間の問題ではなく、Wikipedia での麻雀の記述について書かれています。
問題としての文章があるわけではなく、現実の麻雀において 34×4 と書いてあるのを「おかしい」と論評しています。

なぜ「#tb」!? 掲示板からトラックバックは基本無茶でしょ.
wikipedia:麻雀の中に「34×4」と書かれていたら,間違いなく抜き書きするのだが,取り上げた当時も現在もないし.

【2046609】
wikipedia麻雀の記事、見てきました。
ひとつ分x何倍 の順序であることをご存知の上で、なぜ、しっくりこない場合があるのかということについて、 
 (1)かけられる数>かける数 の方が安定感が感じられる。
 (2)88文字の方が、一文字3バイトよりも強く意識されている。
といった理由を考えられている記事ですね。どちらの式が正しいかを論じている記事ではなく、どういうときにかけ算の式に違和感を覚えるかについての条件を考えられているとお見受けしました。

こうして要約されていると,書き手が何を読んで,それを踏まえてどう考えているのかをうかがい知ることができ,読みやすい.「wikipedia」は,直前のに引きずられた誤記か.

【2046737】
「掛け算の順序を守るべし派」の先生は、式を作る際に「自然な見方」と「屁理屈の見方」があるという考えをお持ちです。

「屁理屈」について,当雑記を見直すと,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20101119/1290100141と,それの抜き出しの2つだけ.そこでの「屁理屈」は,(児童が)問題を解くときの考え方ではなく,(大人の,かけ算の順序をめぐる論争における)正当化の思考プロセスに対する評価である.なぜ「伝わらない見方」と書けないんだろう.

【2046844】
中学受験生を指導した経験からいいますと、自分の考えを整然と言葉で追記できる子はごく少数です。
優秀な子ほど、解答をはやく導きたくて、式ですら書くのがもどかしいほどです。(頭の回転に字がついていかないので、字も汚いです。筆算や暗算だけでガンガン解きたいくらいの子もいます。)

経験・観察に裏打ちされた情報提供.私も自分の範囲の中で,この種の情報が出せるようになりたい.
そのあと,私が小学生を指導しているように読めるが,これはもう,しょっぱなの「先生」が原因.

【2046844】
xや○の為よりは、少しでも自分の考えを正確に伝えたい、という観点で見るとよいのかなとゴルゴサーディーン様への
返信を打ちながら、私自身考えを深くしました。 今後の指導に役立てたいと思った次第です。

社交辞令か.自分もこう書きたくなることがあるので.

【2046943】
ただ、ここは受験対策を語る掲示板ですから
 「なるほど、順序を守らせる教え方は間違いですね!」
などという結論が出るわけはありません。
 でも、一応「教育のため」の掲示板で、しかも記録が何年も残るようですから、私の考
えた問題が教育関係者の目にとまる事があるかも知れない、そういう思いで書き込みした
次第です。

あんたの醜態しか残らないよ!

【2088260】
かけ算に順序は関係ない。1つ分といくつ分を区別することは原理的に出来ない。
割り算に等分除と包分除の違いはない。

1か月ほど経ってからの投稿.そこで何が課題となっているかを踏まえていない.多数の議論をもとにアドバイスをするというのなら,なぜ自分のブログへ誘導するのか? まとめサイトや入門書を挙げられないのか?

【2088260】
ただし、順序に拘ることで児童の算数の理解が促されるという確かなデータを、順序拘り派が提示したのを見たことはない。私自身は、「かけ算に順序は関係あるという嘘を教えることで、児童がみんな算数を理解する」ということに懐疑的である。

そんなことを書くよりも先にすべきは,何が通説で,その通説が間違いであることを示すのに何をしないといけないかを理解すること.もちろん通説を知るためには文献調査が不可欠*4.それを(適切に)していないとたちまち「トンデモ」のレッテルが貼られる.

5×3をめぐるお話・第3話

私は大学生で,アルバイトで塾の講師をしています.この間,机間巡視をしていて,
(3+2i)(5-4i) = \{5\cdot 3-2(-4)\}+\{3(-4)+2\cdot 5\}i = 15+8+(-12+10)i = 23-2i
と書いている生徒がいたのでびっくりしました.
「なあ,ちょっといいか」
「先生どしたの?」
「そこの計算,最初,5\cdot 3じゃなくて,3\cdot 5じゃないのか?」
「あれ,先生に言ってなかったっけ? ボクが小学校2年のとき,これで騒動になったんだよ.『お皿が5枚あります.お皿にりんごを3個ずつ乗せます.りんごはいくつでしょう?』ってのでね…」
はえんえん続きます.そばの生徒が耳打ちしてくれました.
「騒動のあとね,3×5=5×3だからって言って,普通なら3×5と書くところ,あいつ,いつも「5×3」と書くようにしてるんだって」
もちろんフィクションです.

*1:「設問」「類題」の意味でも,教育環境などに対する「課題」の意味でも.

*2:同日追記:かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきであるを挙げないといけませんでした.つい先日,復活しているのに気づきましたので,今後の充実を期待しつつリンク.

*3:対象はまったく異なりますが,これと同じ意味のデザインが見られる本を,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20100309/1268081997で取り上げています.

*4:「なぜ文献調査なのか?」「学校現場や文科省への問い合わせではダメなのか?」という疑問を持ち,それらを解消することも必要.ヒントを書いておくと,文献((広い意味の)論文,書籍,様々な出版物)は,未来に読まれ批判されることを意図して記録化されており,編集という名の最適化がなされているということ.