わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

過去の誤記に目を閉ざす者は

雑報その4です.
(翌日にタイトルを一部変更するとともに,本文も少し修正しています.)

状況をdouble-tree structureにする

(略)出題において,「1つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記されているか,図だと囲い込みがなされているならば,それを被乗数とした式にしなければならず,その場合,被乗数・乗数を反対に書くのは正解として認められません.一方,特に図から式を立てる際,「1つ分の大きさ」が2つ見出せるときには,交換可能な2つの乗算式がいずれも正解になります.

「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと

図にしてみました.

4列あるうち,“「1つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記されているか,図だと囲い込みがなされている”は,左から2番目の列の配置(またはこの構成に対応する問題文)に対応します.それぞれをあらわす式は一つずつです.その逆方向,すなわち,「3×5」「5×3」という式が与えられたときに,そこから得られる図というのも定まります.実際には,式に結びつけられる図(状況)は一つとは限りませんが,今回の図に限ると,上のような結びつきであり,式と囲い込み状況をたすき掛けで結ぶことは,できません.
「3×5」と「5×3」は計算でき,小丸の総数すなわち「15こ」になります.
左端の丸の配列は何かというと,“一方,特に図から式を立てる際”の開始状況を意味しています.このアレイ図においては,“「1つ分の大きさ」が2つ見出せる”ので,“交換可能な2つの乗算式がいずれも”得られる,という次第です.
ここで「各列は3個で,5列ある状況」を起点とし,かけ算で式を立て,小丸の総数を求めることにします.このとき,「3×5」の式と直結しています.しかし「5×3」にはたどり着けません.
左端まで行けばいいじゃないか…行けません.囲い込み(あるいは,出題文の一部)を取り除くことは,総数を求めるというゴールから遠のくことを意味するからです*1
じゃあいったんゴールまで行こう…3×5=15で「15こ」という総数が得られたらおしまいで,「5×3=15」は使えません.あるいは,起点の次に「5×3」がひらめいたとしましょう.そして,「5×3=15」と「3×5=15」により3×5=5×3という交換法則の一例を導き,そこから,「各列は3個で,5列ある状況」の式として「5×3」を認めるべきであるという主張は,その労力の割に伝わらないのです.
他にも,状況を図にするで書いた3つの設問と立式との関係を,PowerPointで描き,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/files/diagram5335.pdfにより取得できるようにしました.
なお,矢印(有向辺)をすべて無向辺に置き換え,自由に行き来できるというのが,いわゆる非順序派,あるいは《かけ算に順序はない》になります.
double-tree structureというのは,上の図が,左半分で木構造(tree structure),右半分でも木構造,それらの葉が中央で結びついて,ダブルの木構造になっている,という意味です.思考展開図であり,個人的にclamshell diagramと命名した図になっています*2.通常,思考展開図では無向辺を使います.とはいえ,左端の1点から出発し,真ん中まで展開して,後半は収束に向かい,最終的に右端の1点に集約される,という流れを持っています.左半分が問題(problem)の領域,右半分が解答(solution)の領域です.左右対称の位置にある2つの情報は,問題・解答のペアをあらわしています.

再掲:AB型とBA型

《AB型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,A×B=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
《BA型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.
1972年の問題を使うと,「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」はAB型,「6人のこどもに,1人4こずつみかんをあたえたい.みかんはいくつあればよいでしょうか」はBA型です.昨年の,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」もまた,BA型です.

AB型とBA型

Re: 「1つ分の大きさ」が2つ見出せるとき

(略)出題において,「1つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記されているか,図だと囲い込みがなされているならば,それを被乗数とした式にしなければならず,その場合,被乗数・乗数を反対に書くのは正解として認められません.一方,特に図から式を立てる際,「1つ分の大きさ」が2つ見出せるときには,交換可能な2つの乗算式がいずれも正解になります.

とりあえず2冊の問題集から,上記の説明が不適切ではないかと思うようになりました.
さっそくですが修正版です:
出題において,「1つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記されているか,図だと囲い込みがなされているならば,それを被乗数とした式にしなければならず,その場合,被乗数・乗数を反対に書くのは正解として認められません.一方,特に図から式を立てる際,「1つ分の大きさ」が2つ見出せるときには,交換可能な2つの乗算式をいずれも解答に書くものとします

実例1(『算数好きにする教科書プラス坪田算数ワークブック2年生 (TEXT BOOK PLUS)』, p.58)


丸1の解答欄が,他より大きくなっています.そして正解(p.148)は,丸ウと丸エです.
交換法則ではありませんが,同じページのすぐ下では,皿に乗ったさくらんぼを図にして,「4×3=12」と「2×6=12」という2つの式を誘導しています.

実例2(『算数好きにする教科書プラス坪田算数ワークブック2年生 (TEXT BOOK PLUS)』, p.59)


「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと,「逆BA型?」で撮影した部分のすぐ上です.
「ロッカーの入れるところの数」で,交換可能な2つの乗算式を書くのが期待されています.最後の「4×2」は,2種類の実体を書くことになります.その逆の式,「2×4」のところで書けるのは,ひとつだけです.

実例3(『通知表に役立つ観点別算数プリント集 小学2年―コピーしてすぐに使える』, p.123)


当雑記では初めて参照する本です.答えはp.178に書かれており,「6×7(6×7=42)」「7×6(7×6=42)」の2つです.小学2年生のかけ算のテストですので,14×3,21×2(とそれぞれの逆)は考えないでいいようです.
この本での《BA型》の初出はp.115です.またpp.127-128の見開きの文章題5問のうち,問3と問5が《BA型》です.『プリントは,後の方になるとそういうふうにしないとバツになることが多い』(船が5艘あります.1艘に4人乗りますより孫引き)の指摘がぴったりです.
○ ○ ○
これまで問題集を目にした限りで,「いずれかを書けば正解」という設問は,かけ算の導入段階では見当たりませんでした.形状から2つが見つけられるのなら,その2つを書くよう,解答欄を設けています.
すると,こういう考えも出てきます.《BA型》の問題に対して「A×B=Pでもいいんだよ」と言う大人がいたときに,「それで,答えのところに,何て書くの? A×B=Pだけで,本当にいいの? B×A=Pは,どうなるの? A×B=PとB×A=Pの両方を書かないと,いけないんじゃないの?」という反論をするのです.
対応はいくつか思いつきます.複数の答えがありそうなときは,まず問題文を読み直します.「一つ答えなさい」と書かれていれば,一つを選びましょう.「n個答えなさい」なら,その指示に従います.きちんと準備されたテストでは,その種の断り書きがついています*3
そういった個数の指示がなく,解答欄も一つだけなら…複数の答えを「一つの答え」として,書くべきなのかもしれません.
小学校の範囲を超えますが,x^2+x-2=0というx2次方程式において(ほかに制約がないときに),x=1を正解とするわけにはいきません.この場合は,x=-2,1などと書きます.実数(複素数かも)全体の集合に対する部分集合\{-2,1\}によって,解が特定されます.このように,一つの要素で表すのと,(要素数が0個や1個のみの場合を許して)集合で表すというのは,情報科学においても,決定性・非決定性の状態機械(オートマトンチューリングマシン)の遷移に関する形式的定義で出現します.
《BA型》の問題に対して「A×B=Pでもいいんだよ」と言う人々のうち,問題文や解答方法への配慮を理解していて,現代の児童生徒そして大人の学力について,測定・向上をサポートするような作問技術を持つ人は,どれくらいいるでしょうか.

思いついたシナリオ

私自身,何冊かは立ち読みで,何冊かは購入して,《AB型》と《BA型》の問題を知ることができました.これまで目にしたところ,《BA型》に見える問題の,解答を覗くと,B×A=P,すなわち文章題に現れる数字を出現順ではなくひっくり返してかけ算の式になっています.
それで一つ,今後あり得そうな展開を思いつきました.
ある本の中に,《BA型》に見えるある問題なのですが,その解答はA×B=Pの形,すなわち数字を出現順に書いて,かけ算にしています.
そういう問題と解答のペアを見つけた,ある意図を持った誰かが,鬼の首を取ったように,現在ではもはや,順序を問われなくなったのだと,ネット上でアピールするのです.
とりあえず今年において,私がそういう事例を見かけたら,本を取り寄せて確認するかな.当雑記で取り上げますし,記載どおりであれば(そして序文やあとがきを含めすべて目を通し,A×B=Pとする意図を読み取れなかった場合に),出版社へ問い合わせをしたいところです.ネットでかけ算の順序をめぐる論争が存在し,そこで指摘されたことと,《AB型》と《BA型》の類型を背景として,当該箇所の解答は,B×A=Pの誤記ではないかと尋ねます.手紙文とし,郵送して,著者さん編集者さんが内容確認をされる間,待ちます.
あとは返事次第.誤記なら当雑記でそう報告しますし,そこに書かれていない編集方針があって,正解はA×B=Pなのだというなら,その編集方針の存在に対して,自分の身の振り方を決めることになるでしょう.

Re: 時速1kmで3km歩く道のりの時速4km分の道のり

「誤記」で思い出しました….

3km/(km/時)×4km/時
は、「時速1kmで3km歩く道のりの時速4km分の道のり」と解釈できるわけで、秀逸な発想、秀逸な単位の表記法だと思います。
(略)

(略)
誤記と思われますが「時速1kmで3km歩く道のりの時速4km分の道のり」は「時速1kmで3km歩く時間の時速4km分の道のり」のことでしょう.しかしそうしたとしても,この意味を理解するのは容易ではありません.
自分なりに,表現を考えてみました.結論としては,「3km/(km/時)×4km/時」を「時速1kmで3km歩いてかかる時間を1あたり量として,その時間に時速4kmで歩いたらどれだけ歩けるか」と解釈すればよさそうです.

時速1kmで3km歩く道のりの時速4km分の道のり

上のエントリに,3km/(km/時)×4km/時という式を考案した人がコメントを入れていますが,こちらは「対話は無理」として,コメントの内容に言及していません.掲示板でよく名前を見かけていたし,書き方から同一人物と推定できるので,そのスタイルでは,対話をしても価値ある結果が得られそうにないなあという思いがありました.
もう一つ,理由がありまして,考案者なら,誤記を見つければ,「取り上げてくれてありがとう.ちなみに『時速1kmで3km歩く道のりの時速4km分の道のり』ではなく『時速1kmで3km歩く時間の時速4km分の道のり』なので,修正してね」といったコメントをするのが自然だと思ったからです.あ,私のエントリではなく引用元にです.
自分なりに苦心するか天啓を得るかして考案したものを,肯定的に取り上げてくれていて,かつ解釈の重要なところで書き間違いがあるのなら,謝意(acknowledgment)を示すとともに修正依頼を通じて,誤解されない形でのアイデアの普及を少しでも進めたいんじゃないのかなあと,思うのです.
恒例の,毒吐きです.「4km/時×3km=3km/(km/時)×4km/時」を一般化させて,量のかけ算についても交換法則が成り立つことを示した(確認した)というのであれば,次にそれを,数学教育の専門家に示し,式の妥当性や教育への有用性をアピールし,批判に耐えるというステップを踏むべきでしょうね.そういう努力をせず,自分が発信できる場でのみ発信しているのでは,衰退する一方です.

今後の予定

また別の観点で,新たに本を取り上げます.Web上で気になるものに出くわしまして,これもいろいろと見ていきたいと思います.
『かけ算には順序があるのか』は読み終えたら,一つのエントリにします.
それで内容整理を兼ねて,2回目のFAQを書きたいと思っています.

*1:「3×5」から一つ左に戻るのは,「たしかめ」を意味し,ゴールから遠くなりますが,スタート地点からゴールへの道のりを固めることにつながります.

*2:作図の意図を言うと,もともとは,書換え系の合流性を念頭に置いていました.2つの流れを合流させてから,全体を見てみると,思考展開図の特徴にぴったり合っているなあと気づいたのでした.

*3:センター試験でも資格試験でも,マークシート式で,選択肢から一つを選ぶ問題に対して正解が複数あると分かったら,正解になるのを選んだ解答だけ加点ではなく,全員正解扱いにするか,採点から外しています.これは出題ルール違反だから,でしょうね.