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切り代,たまたま

知的文章とプレゼンテーション―日本語の場合、英語の場合 (中公新書)

知的文章とプレゼンテーション―日本語の場合、英語の場合 (中公新書)

大学の生協で見つけて,何か面白そうと思って購入しました.著者の意思が強く出ていて,これまでに読んだ中公新書の本,また「知的文章」と銘打った本とは違う書き方と感じつつ,テンポ良く読むことができました.
審査員経験からのアドバイスもあります.一番気に入ったのは:

「切り代」を作らない.
論文,申請書は,前向きの姿勢で書く.消極的な内容,提案,しらけた雰囲気のドキュメントは,審査委員から高く評価されることはないであろう.
審査委員は,優れた点を探すと同時に,欠点も探している.「切り代」すなわち,不採択にする格好の材料が見つかると,安心して落第点をつけることができる.データの間違い,論理の飛躍,間違った現状認識,プログラム*1の意図の無視,規定違反などは格好の「切り代」となる.審査委員に「切り代」をわざわざ見せるようなことをするべきではない.
(p.72)

「伸び代(のびしろ)」は聞いたことがあります.辞書なら伸び代(のびしろ)の意味 - goo国語辞書,日記なら「勉強ができる」のと「研究者に向いている」のとは全く違う - 武蔵野日記で見ることができます.しかし「切り代」は,初めてです.
切り代/建築用語辞典/建築SOHO.netを見かけましたが,その意味での切り代は,残す(使う)部分よりも小さく,一方プロジェクト申請の審査では通常,落とす数のほうが多いことから*2,意味が合わないように見えます.
代(しろ)の意味 - goo国語辞書の中の,『3 材料となるもの』から出てきた造語なのでしょう.と思って本文を見直すと,『「切り代」すなわち,不採択にする格好の材料』と書かれていました.
切り代を作らない---気に入るだけでなく,自分自身,書く際に気をつけないといけないのですが.
 
もう1点は,関係代名詞whichとthatの使い分けです.たしか中学3年のときに,「先行詞が人と物のときはthat」「先行詞がonlyやallなどで修飾されているときはthat」「あとはどちらでもよい」と教わったような.そして高校に入ってから「カンマ+関係代名詞にするときはwhich」も加わりましたが,ここ1年で,英文を読んでいて,「カンマ+関係代名詞that」を見かけた記憶があります.
それはさておき,同書ではまったく別の使い分け方法が紹介されています.

ケルナーは,その著書の中でthatかwhichか迷ったら,incidentally(たまたま)という言葉を入れてみることを薦めている.それによって意味が変わったら,関係代名詞以下の節は,先行詞と内容がしっかりと対応していることになるので,thatにするという判断である.
The government conducted public hearing (Shiwake) on the science policy, which was reported (incidentally) in Nature.
この文では,incidentallyを加えても意味は大きく変わらないので,whichとすべきことが分かる(完成した文では,incidentallyを除く).
しかし,次の文章では,incidentallyを入れることができないので,thatがふさわしいことになる.
The government conducted public hearing (Shiwake) on the science policy that has supported (incidentally) science in Japan for many years.
(pp.201-202)

ケルナーの著書というのは参考文献に書かれていて,「A. M. Koerner(瀬野悍二訳)『日本人研究者が間違えやすい英語科学論文の正しい書き方』羊土社,2005」とのことです.
事業仕分けに対する著者の不満は,p.68脚注にも現れています.
 
国際会議発表を終え,月末には学生の発表を控えていますが,ちょっと自分自身,抱えている研究テーマのどこにどれくらい力を入れればいいのか,分かっていない状態です.2年に1回の(来年開催の)馴染みの国際会議にフルペーパーで通るようにはしたいものです.あとは修士論文,卒業研究をしていく学生のサポートをするとします.

*1:引用者注:計算機のプログラムでも,演目などの一覧のことでもなく,公募事業のこと.p.67に「事業(プログラム)」と書かれています.事業=プロジェクトではないのか,と思う人がいるかもしれないので書き添えると,直後に「課題(プロジェクト)」とあります.

*2:あるいは,審査員は切り代となる文や表現を(文章から)落とす仕事をするのではない,と考えることもできそうです.