わさっきhb

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面積の公式

同日夜に,本文のいくつかを書き換えるとともに,3つの追記を載せました.

記事全体を見たときに,「公式」という言葉がまったく使われていない点が気になりました.「公式」を,どのようにして導く(教師と児童との間で共有する)のか.その「公式」は,どんな場面で(教室の内外で)使えるのか.すでに学んだ「公式」を拡張して新たな「公式」を導くことも,必要になるのではないか.などなど.
「公式」を,「約束事」や「性質(定理)」に置き換えることもできます.「一つ分の大きさ×幾つ分=全体の大きさ」や,「a×b=b×a」は,いずれもその具体例です.
この2つを既習として,組み合わせて「幾つ分×一つ分の大きさ=全体の大きさ」を新たな公式としたい場合,それを,いつ,どのようにして導くのか,どんな場面で利用可能なのか,それを採用したときに「5個ずつ3人に」も「5人に3個ずつ」も5×3で表され,簡潔さ・明瞭さが失われかねない点をどう克服するか,あたりが課題となりそうです.
なお,簡潔明瞭という言葉の使用は,小学校学習指導要領解説 算数編(《算数解説》)を背景にしています.2つ,抜き出しておきます.

式に表す指導に際しては,「1袋に5個ずつ入ったみかんの4袋分」というような文章による表現,○やテープなどの図を用いた表現,具体物を用いた表現などと関連付けながら,式の意味の理解を深めるとともに,記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうことができるようにする。
(《算数解説》p.98)

式に表したり式を読み取ったりすることについては,第1学年の加法の指導に始まり,減法,乗法及び除法の場面においてそれぞれの式の意味を理解させるとともに,式は数量や数量の関係を簡潔,明瞭,的確に,また,一般的に表すことができる優れた表現方法であることを指導している。
(同p.127)

あとはつまみ食いをします.引用において出典を書いていないものは,冒頭のリンク先からです.

平行四辺形の面積を求める式を,「高さ×底辺」の順で書いて,バツになったという実話がありました。

事例集を作ったほうがいいと思います(何十年か前の学級委員会っぽく).

つまり,縦5cm・横3cmの長方形の面積を,5×3で求めても,3×5で求めても良いということは,普通は,「縦5cm×横3cm=横3cm×縦5cm」と理解されていると思うし,指導要領・教科書の記述もそうとしか読めないのですが,それとは別に,縦5cm・横3cmは,縦3cm・横5cmと見ることもできるから,
 縦5cm×横3cm=縦3cm×横5cm
と,数値を逆にしても良いと考えているのではないかという疑念があります。

指導要領から「縦5cm×横3cm=横3cm×縦5cm」を得るのは無理筋に思います.

(略)全体が長方形になるが,そのとき面積は,辺の長さを測るだけで計算で求められる。例えば,右の図のような長方形の面積を求めるには,面積の意味を考えれば,単位の正方形を敷き詰めてその個数を求めればよい。単位正方形が規則正しく並んでいるので,乗法を用いると,手際よく個数を求めることができる。このとき縦や横の長さを,1cmを単位として測っておけば,その数値について(縦)×(横)(もしくは(横)×(縦))の計算をした結果が,1cm2を単位とした大きさとして表されることになる。このことより,
(長方形の面積)=(縦)×(横)(もしくは(横)×(縦))
という公式が導かれる。
(《算数解説》p.147)

この記述と既習事項を組み合わせると,得られるのは

  • 縦5cm・横3cmの長方形の面積は,(長方形の面積)=(縦)×(横)という公式を使って5×3=15と表され,15cm2である.
  • 縦5cm・横3cmの長方形の面積は,(長方形の面積)=(横)×(縦)という公式を使って3×5=15と表され,15cm2である.

であり*1

  • 縦5cm×横3cm=横3cm×縦5cm
  • 縦5cm×横3cm=縦3cm×横5cm

にはなりません.そもそも,名数を含んだ積は学習していません*2.さらに,そこで得られる交換法則を今後,どのように活用できるのでしょうか.修飾語を落として

  • 5×3=3×5

と書くことはできますが,これは結局のところ,具体物またはアレイ図(ドット図)を用いて確認できる乗法の交換法則は,長方形の面積で考えても成り立つ,ということです.

5×3 では,5がかけられる数で,3がかける数です。そして,「かけられる数とかける数を入れかえて計算しても,答えは同じになります」と,小2の教科書にあります。5×3=3×5 です。
右辺の式で,かけられる数は何で,かける数は何なのか。(略)

  • 5×3と表記したら,5がかけられる数(被乗数),3がかける数(乗数)
  • 3×5と表記したら,3がかけられる数(被乗数),5がかける数(乗数)

と判断しないと,《算数解説》や様々な書籍で「被乗数」「乗数」が出現する箇所を読む際に,行き詰まるように思います.

出てくるのは,「かけられる数とかける数を入れかえて計算しても,答えは同じになります」という文言です。
 そして,1つ分の数といくつ分については,こういう文言すら出てこない。
 しかし,「かけられる数とかける数を入れかえてもよい」という理解は,「1つ分の数といくつ分を入れかえてもよい」という理解につながり,「縦×横=横×縦」という式が出てくるときには,まったく当然のことと受け入れる,という流れはまったく当然なことだと思うのです。

「かけられる数とかける数を入れかえて計算しても,答えは同じになります」と「かけられる数とかける数を入れかえてもよい」は違うことを言っています.前者からは,「『5個ずつ3人に』も『3個ずつ5人に』も総数は15個」が得られるのに対し,後者は「『5個ずつ3人に』も『3個ずつ5人に』も同じこと」を主張しているようなものです.

追記1

《算数解説》p.147を引用した中の「単位正方形」という言葉をもとに,「単位」を検索したところ,びっくりするほど出てくるのを知りました.
mlは第2学年,平方cmは第4学年が,それぞれ初出なのですね.
それと,長さの単位よりも前に,「数を十を単位としてみること」が第1学年にあるのも,これまで見過ごしていました.十や百,千や万などを使って,数を表すときにも,単位という言葉が出てきますし,小数では0.1を新たな単位としています.
分数の話では,「単位分数」という言葉も出現します.「分数は,単位分数の幾つ分かで表すことができる。」(《算数解説》p.115)は,なるほどです.
こういった種類の「単位」の学習が素地となっていて,縦5cm・横3cmの長方形の面積を求めることができる---小学校4年生の段階では---のであり,2つの長さ(という,単位を含む量)から面積(同)を求めるという考え方とは別に,大事にしたいものです.

追記2

「縦×横=横×縦」ではないところでの等式が,《算数解説》にあります.

また,直方体の体積を求める公式から類推して,角柱や円柱の体積を求める公式を導くことができる。まず次のように直方体での(縦)×(横)が(底面積)に当たるととらえる。
(直方体の体積)=(縦)×(横)×(高さ)=(底面積)×(高さ)
このことを基にして,一般化して角柱や円柱の体積を求める公式を
(角柱や円柱の体積)=(底面積)×(高さ)
という形でまとめることについても理解できるようにする。
(《算数解説》p.198-199)

《算数解説》ばかりじゃ芸がないので,最近読んだ文書を引いておくと,算数授業研究 77 特集:まるごと1冊新内容の算数授業!ここがポイント pp.32-33*3で,縦3cm,横4cm,高さ7cmの立方体に対し,底面の対角線で切断して等分される一つの三角柱について,2種類の方法で体積が求めることを通じて,「柱体の体積=底面積×高さ」に至っています.

追記3

冒頭のリンクの記事から,連想するWebページがあります.

これは,「どちらでもいい」は書く人ではなく書いてもらう人が言うこと(何じゃこの掲示板は)において,ずいぶんな毒をもって取り上げています.
共通してそうな主張や考え方を,図にしてみます.

という,図(あるいは場面)と式との関連づけがあるときに,

とすることができる,という主張のように,見えるのです.あるいは違いを表にしてみように載せた

でもいいでしょう.
上の3つの図に対する個人的見解を述べておくと,1枚目の図は乗法の交換法則を具体物で示すためのプロセスとも言え,異論ありません.2枚目と3枚目の図は,美しさも面白さも感じられませんし*4,実用や教育の面でも役に立ちそうにないなという感覚です.

*1:テストで面積を求めるとき,式として,2つ思いついたうちのどちらを選択するか,というのは検討の余地があると思います.

*2:学校教育の場で導入し,学習させることはおそらく可能でしょうが,指導の時間をどこで何時間(何コマ)とるべきか,それを入れる分,減らす内容は何なのか,また「縦5cm×横3m」や「縦5cm×横1m20cm」といった計算にどう対処すべきかの検討が必要となります.

*3:工藤克己:「縦×横×高さ」からの転換

*4:と言いつつもclamshell diagramを初めて使った予稿を読み直したところ,2枚目の図は線の交差がよろしくなくて,3枚目の図はasymmetricなものだと.そしてそれ以上の進展は,望めそうにないなあ….