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二十は「二×十」? 「十×二」?

 どこだったかのブログで,「3億は3×億じゃないのか」というのを見かけました.今は見あたりません.いくらなんでもそれは,と思ったのですが,ちょっと本を開いてみると,あっさり見つかりました.

 思えば,そもそも,漢数字の数の表わし方,「二十,三十」「五百,六百」などは,十が二個,三個,百が五個,六個であり,「いくつ分×1あたり量」の逆順になっています.
(『かけ算には順序があるのか』p.19)

 とはいうものの,数の表わし方・読み方は,十進位取り記数法に関する話です.
 もし,かけ算と結びつけようとするなら,さしあたり次の疑問に答えられるようにしないといけません.

  • 二十を2×10とすると,十二は10×2ではないのか.もしくは,二十を10×2とすると,十二は2×10にならないのか
  • 10は「十」なのに,歩合の話で0.1は「割」ではなく「一割」というのはなぜか

 十進位取り記数法をはじめとする,学校教育の語彙や考え方に基づくと,「十」や「百」は,1あたり量ではなく,単位です.実際,学習指導要領には「数を十を単位としてみること。」とあります.
 「m(メートル)」も,単位です.ただし「m」単体だとふつうは,具体的な長さを表わしたことになりません(ただし後述の通り,「m」単体で1mと表すとした本もあります).数を前に置いて「2m,3m」などと書くことで,長さとなります.
 「十」は,これ1文字で10という具体的な数を表しますし,「十の位」や「一,十,百,千,万,十万」と書くときには,単位となります.
 なお,「1」と書いてから,あとは右に「0」を並べていくときも,「いち,じゅう,ひゃく,せん,まん,じゅうまん」と言いますが,これは位取りと関係ありません.漢数字を使わないのはもちろんですが,それに加えて,その都度,そこまで書いたイチゼロの系列を数とみなすとき,その呼称が順に「いち」「じゅう」「ひゃく」「せん」「まん」「じゅうまん」となっています.書いた瞬間の「0」が,位に対応するのではないのです.
 単体で数量になり,数を前に置けば単位になるものとして,「倍」が挙げられます.「倍」のみだと「2倍」を意味しますし,「2倍,3倍」などとも書きます.
 上に2つ書いた疑問については,こうなります.
 「割」は「m」と同じで,単位にはなるけれど,「割」単体では,0.1となってくれないのです.なぜそうなのかは,算数・数学だけでは解決できず,これまで日本語としてどのように呼ばれ,使われてきたかによります.そして学習においては,国語と結びつけて理解するのがいいでしょう.「1本,2本,3本」を「いっぽん,にほん,さんぼん」として,「本」の字を読み分けるのも,国語と算数とを結び付けて理解するのによい題材のように思います.
 「十二」が10×2でも2×10でもなく,10+2となるのは,「1cm2mm」に似たところがあります.「1cm×2mm」でも「2mm×1cm」でもなく,演算子を使うのなら,「1cm+2mm」でしょう.複名数です.ただし,長さの場合は「cm」だとか「mm」だとか,それぞれに単位が必要となります.計算や資料の整理において,「12mm」「1.2cm」とすることが望まれる場合も,あるかもしれませんが.
 これを踏まえて,12と書かれる数の読み,というか漢数字表記を確認します.ボトムアップでやってみると*1,まず“一の位”が2なので「二一」ではなく「二」,そして十の位は“1”なので「一十」ではなく「十」とし,大きいものから並べて「十二」となる次第です.
 数の表わし方としては,以下の疑問も,興味深いものです.

  • 1000は「千」だが,10000000は「一千万」となるのはなぜか
  • 13000000は「一千三百万」か「千三百万」か
  • 30は「じゅうがみっつで,さんじゅう」だが,0.3は「れいてんいちがみっつで,さんれいてんいち」ではなく「れいてんさん」となるのはなぜか

 これらを算数の観点で,したがって児童はいつどのように学習していくのかを,検討する際の背景にあるのは,かけ算ではなく,十進位取り記数法であるように,思えてなりません.少し上で“一の位”,“1”と書きましたが,これらは結果には現れないけれども,読んだり漢数字で表記したりするには必要な知識*2で,十進位取り記数法の中で学習されるべきはずのものです.
 ちなみに「一千万」と「千万」の呼び分けについては,よく分かっていません.例えばhttp://www.ai-study.com/download/4-1/4a001.pdfには,これらが数の表現・位の表現のどちらにも現れます.3年向け問題集を1冊,読み直したものの,千万の位が1になる数の読み方や漢数字表記を問うものは,ありませんでした.
 ここまで何の注釈もなく,「十進位取り記数法」と書いてきましたが,これは現行の学習指導要領に現れる語句です.小学校学習指導要領解説 算数編(《算数解説》)のPDFファイルで検索したところ,37個見つかりました.
 この考え方と意義,そしてなぜ「位取り」という言葉が入っているのかについて,第4学年の解説の中にちょうどいいのが書かれていたので,抜き出します.

 整数は,十進位取り記数法によって表されているが,これは,次の事柄を基本的な原理としているものである。
(1) それぞれの単位の個数が10になると新しい単位に置き換える。(十進法の考え)
(2) それぞれの単位を異なる記号を用いて表すかわりに,これを位置の違いで示す。(位取りの考え)
 この記数法の仕組みによると,どのような大きな数でも,0,1,2,3,4,5,6,7,8,9の10種類の数字で表すことができる。
(《算数解説》p.133

 ところで,「m」単体で,具体的な長さを表すとしたとき,乗算記号を含む式がどのようになるかを記した本があります.

 一般に,任意の自然数nに対して,長さAn倍が定められる; それはn個のAの和
    A+A+\cdots+A*3
であり,nAまたはA\times nで表される.
例.われわれが‘メートル’というのはメートル原器の長さである.ふつうはこれをmで表す.
 メートルの二倍は――いま述べた記法によれば――
    2m または m×2
と書かれる.しかし小学校では,あとの書き方を許さない.
 この長さの三倍は,
    3(2m) または (m×2)×3
と書くことができる.しかし小学生たちは
    2m×3
と書くことを強制されている.この書き方は‘混合式’である; 2は左から掛け,3は右から掛けている.この不統一にだれも気が付かないのはふしぎである.――
(『量と数の理論』pp.17-18)

 上記の「m」を「十(10,じゅう)」に置き換えると,2mは「二十」,m×2は「10が2つ(で20)」を表すことになります.「(m×2)×3」や「2m×3」は,「20が3つ(で60)」です.「3(2m)」についてのみ,難しいように思えます*4.その式に出現する「3」と「2」は,「係数」と見なすことができ,この概念は小学校で学習しません*5

*1:最上位が何の位になるかを知り,上位の桁から下位の桁へ,トップダウンで行うのが,自然な流れではありますが.

*2:そういえば中1のとき,1aではなくaと書く,1はイチイチ書かない,と塾で教わったのでした.

*3:原文ではこの式の上に「n個」が書かれています.

*4:仏教に基づく法要の「二七日(ふたなのか)」から「七七日(しちなのか)」までは,「七日」の前に,「二」から「七」までが付くので,「3(2m)」と同様の数の構成に見えます.

*5:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/09/10/043454