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論文から学ぶ乗法理解

小学校の算数教育における乗法(乗算,かけ算)の理解のため,読んだ論文や,参考文献に挙がっていて入手したい文献を,リストにしました.
著者(姓のみ,共著は筆頭筆者のみ)と公表年を組み合わせ,"[" "]"で囲った,それぞれの小見出しは,今後,出典を示すために使用することを考えています.

[齋藤2011]

  • 齋藤大地, 糸井尚子: 大学生における分数の乗法・除法の指導法に関する調査, 東京学芸大学紀要 総合教育科学系, Vol.62, No.1, pp.157-164 (2011).

http://ci.nii.ac.jp/naid/110008452389.直接,論文をダウンロードするなら,http://ir.u-gakugei.ac.jp/bitstream/2309/108086/1/18804306_62_14.pdf
教員志望の大学生に,分数の乗法・除法の指導法をレポート形式で書かせ,指導法の分類を試みています.

[Yoshida 2009]

  • Yoshida, M.: Is Multiplication Just Repeated Addition? --- Insights from Japanese Mathematics Textbooks for Expanding the Multiplication Concept, 2009 NCTM Annual Conference (2009).

http://www.globaledresources.com/resources/assets/042309_Multiplication_v2.pdfwikipedia:en:Multiplicationでリンクされていました.
論文ではなく,年次発表のスライドです.NCTMはNational Counsil of Teachers of Mathematicsの略で,数学教育に関する学会とみてよさそうです.
英訳された東京書籍の算数の教科書から,乗除算の例を取り出し,被乗数と乗数の区別を含め,かけ算がどのように指導されているかを解説しています.

[金田2008]

  • 金田茂裕: 小学2年生の乗法場面に関する理解, 東洋大学文学部紀要 教育学科編, No.34, pp.39-47 (2008).

http://ci.nii.ac.jp/naid/40016569351.個人的には大学図書館で読みましたが,電子版は出回っていないようです.この紀要の表紙には,「第62集」と「教育学科編 XXXIV」が書かれています.
「小学2年生と大学生」「文章題で被乗数の出現が先か後か」などで分類して,いくつか問題を解かせ,正答率を比較しています.

[小原2007]

http://ci.nii.ac.jp/naid/110006184927.オープンアクセスとなっており,無料でダウンロードできます.
小数を乗数とする際の立式や計算の困難さ(乗数効果)について,小学4〜6年生を対象に問題を解かせ,分析しています.文章題の作成にあたっては,乗数と被乗数が「区別される」ものと「区別されない」ものがある点に配慮しています.

[高島2000]

  • 高島純: 整数の乗法の理解過程に関する研究: 茂男君と和男君へのインタビューを通して, 上越数学教育研究, No.15, pp.75-84 (2000).

http://ci.nii.ac.jp/naid/110000087958.直接,論文をダウンロードするなら,http://www.juen.ac.jp/math/journal/files/vol15/takashima.pdf
2人の児童へのインタビュー(やりとりを読む限り,指導しているという面もあります)により,彼らの乗法に対する理解過程をとらえる試みをしています.

[岸本2000]

  • 岸本忠之: 小数の乗法における学習状態の移行, 富山大学教育実践総合センター紀要, No.1, pp.1-8 (2000).

http://ci.nii.ac.jp/naid/110000094748.機関リポジトリに入っており,無料でダウンロードできます.
倍(multiply)に関する,小数を乗数とするかけ算の問題について,演算決定(立式)と演算処理(計算)がそれぞれできる状態になる過程を,4年生への実験授業を通じて調査しています.

[白井1997]

  • 白井一之, 前野哲夫, 上野文子, 尾嵜裕子, 新井克巳, 原沢伸一, 瀧本有紀子, 幸内悦夫, 小関哲之: 乗法・除法の演算決定に有効にはたらく数直線の指導, 日本数学教育学会誌, Vol.79, No.6, pp.191-196 (1997).

http://ci.nii.ac.jp/naid/110003732673.CiNiiからは有料でダウンロードできます.
複数の学級での出題・指導を通じて,乗除算の問題に対し数直線を用いて解く方法の有用性を示しています.「できる段階」と「数直線が使用される場面(1年から6年まで)」が,それぞれ表として整理されています.

[今井1994]

  • 今井敏博: 教員志望学生の算数における乗法の意味の拡張の捉え方について, 和歌山大学教育学部教育実践研究指導センター紀要, No.4, pp.1-8 (1994).

http://ci.nii.ac.jp/naid/110004614978.オープンアクセスとなっており,無料でダウンロードできます.
乗法の意味やその拡張について,大学生(算数教材研究の履修生)を対象に意識調査を実施しています.「乗法の意味の拡張」を疑問形で表してみるなら,「7×2.4は,7を2.4回加える(累加で計算できる)としてよいか」ということです.

[Greer 1992]

  • Greer, B.: Multiplication and Division as Models of Situations, Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning, pp.276-295 (1992).

http://psycnet.apa.org/psycinfo/1992-97586-000, isbn:0029223814.
[小原2007]の参考文献で知りました.Greerには「グリア」の読みが記されています.
かけ算・わり算が使われる状況を細かく分類しています.各分類を代表する文章題*1や,式で表す際の考え方について,多くの文献をもとに例示しています.あるページでは「1あたり量("per"つきの量)」が×の右に,別のページでは左に現れています.

[Vergnaud 1983]

  • Vergnaud, G.: Multiplicative Structures, Acquisition of mathematics concepts and processes, pp.127-174 (1983).

http://openlibrary.org/books/OL3161098M/Acquisition_of_mathematics_concepts_and_processesisbn:012444220X
算数・数学科重要用語300の基礎知識』p.187では,この文献を用いて,乗法の意味を解説しています.Vergnaudには「ヴェルニョー」という読みが記されています.原文を入手していないので,この本から引用します.
乗法の意味として,(1)スカラー関係に基づく乗法,(2)関数関係に基づく乗法,(3)量の積に基づく乗法が挙げられています.(1)には「(求める全体量:x)=(基準量:a)×(倍量:b)」,(2)には「(求める全体量:x)=(単位あたり量:a)×(単位のべ量:b)」という言葉の式が書かれています.(3)については等式はなく,長方形の面積,立体の体積が例示されています.

[Nagumo 1977]

  • Nagumo, M.: Quantities and real numbers, Osaka Journal of Mathematics, Vol.14, Num.1, pp.1-10 (1977).

http://projecteuclid.org/DPubS?verb=Display&version=1.0&service=UI&handle=euclid.ojm/1200770204&page=record.無料でダウンロードできます.
公理的に定義された量の集合に対して,倍概念として作用する数を正の整数から実数全体まで拡張しています.2つの量の間の乗算は,書かれていません.

[中島1968a]

  • 中島健三: 乗法の意味の指導について, 日本数学教育会誌, Vol.50, No.2, pp.2-6 (1968).

http://ci.nii.ac.jp/naid/110003849500.CiNiiからは有料でダウンロードできます.
小数の乗法(かける数が小数のかけ算)の意味を,昭和42年に,東京の8つの学校・学級,約300人に対して実施し,累加,割合,関数(複比例)などの観点で考察しています.

[中島1968b]

  • 中島健三: 乗法の意味についての論争と問題点についての考察, 日本数学教育会誌, Vol.50, No.6, pp.74-77 (1968).

http://ci.nii.ac.jp/naid/110003849391.CiNiiからは有料でダウンロードできます.
「乗法は累加」として指導することの是非に関して,The Arithmetic Teacherで掲載された論争を紹介し,それを踏まえて日本の算数教育のスタンスを解説しています.米国にない日本の指導の特徴として,整数の乗法から小数・分数の乗法へ至る際の意味の拡張を指摘しています.
なお,数学教育協議会の主張では「乗法は累加(を簡潔に表現したもの)ではない」の代案として,「1あたり量×いくら分」や「内包量×外延量」と表されることがありますが,この論文で取り上げている議論は別物となっています.「乗法は累加」に異議を唱える記事では,立式の仕方ではなく計算手続きに注目しているほか,累加は分配法則の特別な場合とみなしています.

[Rappaport 1965]

  • Rappaport, D.: Multiplication is repeated addition, The Arithmetic Teacher, pp.550-551 (1965).

電子版は,見つかりませんでした.[今井1994] [中島1968b]のほか,[杉山1978]*2でも引用されています.前二者の中で,Rappaportには「ラパッポルト」という読みが記されています.
タイトルを日本語にすると「かけ算は累加である」であり,かけ算をどのように意味づけるべきかについて,アメリカの算数教育で議論となった発端の論文のようです.
2ページなので,「論文」というよりは,日本でいうと『算数授業研究』などで掲載されているような「記事」なのかもしれません.

関連

改訂記録

  • 2011年10月23日:[中島1968a] [中島1968b]を追加しました.[Rappaport 1965]の説明を一部変更しました.

*1:「1つの花びんに紅白1本ずつの花がさしてある.この花びんが5つあるときの花の総数はいくつか」はCartesian productに位置づけられるのに対し,「紅白」をなくして「1つの花びんに2本ずつの花がさしてある.この花びんが5つあるときの花の総数はいくつか」とすると,equal groupsに分類されます.

*2:CiNiiに入っていなかったこともあり,この文献は項目にしていません.書誌情報は次のとおり:杉山吉茂: 諸外国にみる「かけ算の意味と計算」, 新しい算数研究, No.85, pp.8-10 (1978).