先月あたりから,「かけ算+指導案」を検索語として当ブログへアクセスするのを,ログから目にするようになりました.「かけ算」のところは「掛け算」や「乗法」のこともあります.
そういった方々に役に立つよう,ここで整理を試みることにしました.
1. Webで「かけ算指導案」
Webで読める,「かけ算指導案」のリンク集として,手前味噌ですが
を挙げたいと思います.タイトルやブックマークコメントから,面白いものを見つけ,読んでいただければと思います.
かけ算や算数指導に関する,より広い範囲の議論や情報発信については,次のブックマークもご覧ください.
2. 本で「かけ算指導案」
とはいうものの,Webよりは書籍のほうが安定感・信頼感があります.学校現場のほか編集者さんなど,複数の人の目が通った結果だからです.
「まず1冊」となると,1年前に出版された,次の本でしょう.
活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編
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- 発売日: 2011/09/01
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板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉
- 作者: 夏坂哲志,筑波大学附属小学校算数部
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新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下
- 作者: 細水 保宏,大野 桂,筑波大学附属小学校算数部
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4. かけ算の言葉の式
かけ算の式は,構文としては「かけられる数×かける数=積」として表されます.かけられる数は「被乗数」,かける数は「乗数」と書かれることもあります.
しかし,ある場面や文章題を子どもが見て,「これはかけ算だ(かけ算の式で書ける)」と判断するには,かけ算の意味を丁寧に教え,定着させる必要もあります.
その際,かけ算の導入段階で何種類か異なる「言葉の式」が,算数指導の中で出回っています.具体例を挙げますと:
- 一つ分の大きさ×いくつ分=全体の大きさ
- 1あたりの数×いくつ分=全体の数
- 1あたり量×いくつ分=全体量
- 基準量×いくつ分=全体量
この中で「1あたり」というのは,数学教育協議会の活動・成果と関わりがあります.その考え方は学習指導要領など,いわば「表」に出てこないのですが,Webの情報を目にする限り,結構な割合で教育現場で活用されているように感じます.
それぞれに一長一短がありますし,また現在では名称だけ異なり意味は実質的に同じと思えることもあります*1.
なので,学年や学校全体で算数をどう系統立てるかによって,授業中の名称を選択するのがいいと思います.
5. 注意を要する出題
「かけ算の順序論争」を経て,次の種類の出題が注目を集めるようになりました.
- 「いくつ分」に当たる数が先に,「一つ分の大きさ(1あたりの数,基準量)」が後に出現する文章題
- 「a×b」でも「b×a」でも表されるような場面
- 一方が「a×b」で,もう一方が「b×a」で表されるような一対の文章題
それぞれ例題を挙げておきます.
- 「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」(「×」から学んだこと)
- 「1つの花びんに紅白1本ずつの花がさしてある.この花びんが5つあるときの花の総数はいくつであろうか.」(『算数子どもの考え方・教師の導き方 2年』p.116の改題)
- 「1はこに6こずつ入ったせっけんが4はこあります。せっけんはぜんぶで何こありますか。」と「せっけんの入ったはこが6はこあります。1はこに4こずつ入っています。ぜんぶで何こありますか。」(『小学校新卒教師に贈る算数科授業の基本技88』p.40; 8マス関係表より孫引き)
ただし,2番目はアレイ図を提示して,総数をかけ算の式にするほうがより広く行われています.
6. 三者のバランス
かけ算に限らず,算数の学習指導案を文書化したり,授業内容を計画・議論したりするには,「教える人」「解かれるべき問題」「答える子どもたち」のバランスが,重要になるように思います.
ちなみにこの三者は,情報工学の世界では,「コンピュータシステム」「データ・情報」「利用者*2」に対応づけられます.「教える人」と「コンピュータシステム」が結びつくのは奇妙に思えるかもしれませんが,子どもたちが問題を解く姿,利用者の期待するアウトプット,をサポートするという共通点があります.
「与えられた問題を解く(解けるようにする)」ことだけが,算数教育であってはならないはずです.事例は割愛しますが,「学びあい」や「作問(式を与え,子どもたちがそれに合った文章題を作ること)」が活用されています.
(最終更新日時:Fri Sep 7 03:25:23 2012ごろ)
*1:「1あたりの数」や「1あたり量」に基づいていても,「2本/羽」といったパー書きを採用していないことによって,「一つ分の大きさ×いくつ分=全体の大きさ」と見かけが同じ,という事例も目にします.いわゆるパー書きについては,例えば『かけ算とわり算 (子どもを賢くする―よくわかる算数の授業)』p.145に解説があります.
*2:「ユーザー」あるいは「ユーザ」とも言います.