わさっきhb

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算数のつまずき

着想,取りまとめ方など,読んで勉強になりました.
その上で,小学校の欄にいくつか,気になったことがあったので,書いておきます.
まず最も大きな違和感を持ったのは,「1より小さい数をかける(で割る)と,もとの数より小さく(大きく)なること」が見当たらない点です.これは「つまずき」と関係する話でして,例えば現行の小学校学習指導要領解説 算数編で「困難」という言葉は3箇所出現するのですが*1,その一つが,この件なのです.*2
任意の実数a,bに対してab<aであるとは言えませんが,a>0,b<1のときには常に成立します.小学生向けの言葉にすると,「もとの数が0でないとき,1より小さい数をかけると,もとの数より小さくなる」「もとの数が0でないとき,1より小さい数で割ると,もとの数より大きくなる」となります.そのことを確認しているテストや学術調査について,「小数のかけ算・割り算」の意味理解について乗数効果で取り上げています.
次に戸惑いを覚えたのは,画像では

【難】平均は「足してその個数で割る」ものと理解して、相加平均以外の平均(調和平均,相乗平均)が理解できない

とあり,記事では「平均は「足してその個数で割る」ものか(誤)」となっている箇所です.
相加平均以外の平均の概念を,小学生に理解させるのは,非現実的です.中学の数学にも,見当たりません.調和平均といえばwikipedia:仕事算,また相乗平均といえばwikipedia:平均の中の平均成長率が連想できますが,調和平均や相乗平均を理解・活用して計算するわけではないのです.せいぜい言っていいのは,相加平均で求めてはいけないという事例の存在までです.
ここでまた,小学校学習指導要領解説 算数編に当たると,平均に関しては「測定値の平均」と「資料の平均」という項目があります.平均の具体的な求め方や式は書かれていませんが,挙げられている例を見ると,相加平均しか想定されていません*3.なお,p.178には「走り幅跳びで跳んだ距離を平均する際,足が合わなくてうまく跳べなかった値などを除外すること」とあり,これは,「(単純に)足してその個数で割る」のが適切でない例となるように感じます.*4
あとは,もっと細かいことです.画像とテキストの両方に,「少数点」という誤変換があります.「□=△でも□cmと△cm^2は違う」は分かりにくく,代わりに「1m=100cmだが1m^2=100cm^2ではない」の話が入るべきかなと思います(小学校学習指導要領解説 算数編のp.148に書かれています).
こう書いてみたものの,子どもの学力が上がるだとか下がるだとかいったことには,役立ちそうにありません.個人的には,芳沢光雄氏は小学校の算数教育に関してはさほど明るくなさそうという思いを,強くしました*5

*1:「つまずき」や「つまずく」は見当たりません.

*2:もし,自分なりにこれを入れるとなると,「(6)負の数どうしの積は正となる認識の関連」を「(6)乗除による大小関係」と名称変更してそこに記載し,高等学校の列にある,負の数の-(1/2)乗の分は,(2)あたりに移動すればいいのかな…しかし,しっくりきません.1箇所でも書き換えを試みるとなると,難しいもので.

*3:算数教育指導用語辞典』p.247の脚注には「相加平均」について,「6年で学習する平均のことで,これを相加平均という。また算術平均ともいっている。」とあります.

*4:高校での相加平均・相乗平均の関係や,並列つなぎの電気抵抗について,まずは2つの値の平均で学習するのに対し,小学校では「測定値の平均」にせよ「資料の平均」にせよ,2つではなくそれより多い個数で平均を求めるのがポピュラーである,という違いもあるように思います.

*5:例えば,「連続量」と書いたけれど「分離量」を避けています.別件ですがかけ算の取り扱いについて,テーブルの数に4をかけるや,http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0803V_Y2A800C1000000/?df=2の「(3×6+5)÷4=5.75」「60÷5.75×404=4215.65(m)」からして,無頓着(もしかして戦略的?)なのかなという認識を,持っていました.