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はじき〜式

図による要約:

はじめに,おことわりです.将来的には,速さの概念を学習し,小学校の算数を終えて中学校の数学でどんなことを学ぶか,期待と不安を持つ子ども向けの文章を書こうと思っています.本日はそこまで行き着いておらず,「大人の議論」に基づくメモです.
それと,分数の式について,\frac{a}{b}を「a/b」,\frac{a}{b\times c}を「a/(b×c)」と表記します.「a/b×c」は「(a/b)×c」を意味し,「a/(b×c)」ではありません.
さて,はじきの図(『人気講師が教える理系脳のつくり方 (文春新書)』p.103)

では,次のようにして,既知の2つから未知の1つを求めることになります.*1

  • 「は」を隠して,「は=き÷じ」もしくは「速さ=距離÷時間」
  • 「き」を隠して,「き=は×じ」もしくは「距離=速さ×時間」
  • 「じ」を隠して,「じ=き÷は」もしくは「時間=距離÷速さ」

気になるのは,「隠す」操作に必然性がないように見えることです.
そこで発想を転換し,未知のものを複数回,表示させるようにします.
まずは「速さ=距離÷時間」を変形して,「距離/(速さ×時間)=1」という式にします.
この式に対して,両辺に「速さ」をかけます.かけるのは,左からでも右からでもかまわないのですが,語順と,「をかける」と書いたことから,右からで統一します.
左辺は,「距離/(速さ×時間)×速さ」で,2つの「速さ」が打ち消し合って,「距離/時間」です.右辺は,「1×速さ」で,「速さ」となります.
といったわけで,「距離/時間=速さ」の式になります.「速さは…」としたければ,両辺を交換して,「速さ=距離/時間」です.
さらに,「距離/時間=速さ」の両辺に「時間」をかけます.すると左辺は「距離/時間×時間」で,約分ができ,「距離」だけになります.右辺は「速さ×時間」で,ここから変形はできません.したがって,「距離=速さ×時間」です.
「距離/(速さ×時間)=1」に戻って,この両辺に今度は「時間」をかけます.左辺は「距離/(速さ×時間)×時間」で,2つの「時間」が打ち消し合って,「距離/速さ」となります.右辺は「1×時間」なので,「時間」です.最終的には「距離/速さ=時間」(もしくは「時間=距離/速さ」)となります.
ここまでの流れを図にしたものを,再掲します.

丸を描いて「は・じ・き」を置くという図式が,「距離/(速さ×時間)=1」という1つの式(等式)で表されます.それにより,従来,未知のもの「を隠す」としてきた行為は,等式の変形によって,未知のもの「について解く」ことに取って代わるというわけです.
なお,先日も書きましたが,両辺に同じ数をかけてもよい(a=bならば,ac=bc)という等式の性質は,中学校で学習します.6年までの内容を終えた小学生に,いわば先取りとして,これを示してもいいのでしょうが,以下ではその方針をとらず,速さ・時間・距離それぞれを数に置き換えて,ここまでの等式が成り立つのを確かめることにします.
例文は,「たろう君は,時速3km*2で2時間歩いたので,6kmを歩きました」としましょう.先ほどの文字に当てはめると,速さが3km/時,時間は2時間,距離は6kmです.式は「6/(3×2)=1」となります.左辺だけで計算すると,1が得られ,右辺と等しくなります.
この式の左辺に,3をかけてみます.すると,「6/(3×2)×3」で,3と3とで打ち消しあい,「6/2」とできます.これは約分ができて,「3」です.
「6/(3×2)×3=3」となるのですが,これは「6/(3×2)=1」の両辺に3をかけた結果でもあるのです.
距離に関しては,「6/(3×2)=1」の両辺に「3×2」をかけ,左辺を計算すれば,6です.そこから「6=3×2」となります.
時間については,「6/(3×2)=1」の両辺に「2」をかけると,左辺は「6/(3×2)×2」が「6/3」となって,約分して「2」,右辺はもちろん「2」です.
ここまで使用してきた「3」「2」「6」という数は,算数・数学教育では擬変数と呼ばれるそうです.乗法の交換法則を「3×5=5×3」で表したときの,3や5も,擬変数です.
最後に,「距離/(速さ×時間)=1」とした意図についても,書いておきましょう.一つの見方は,「はじき」の図に合うように,「速さ・時間・距離」を合わせた,というものです.そのほか,

  • 「比例」と「商一定」:y=k×xであるとき,かつそのときに限りy/x=k
  • 「反比例」と「積一定」:y=k/xであるとき,かつそのときに限りx×y=k

を統合したもの,と考えることもできます.実際,「距離/(速さ×時間)=1」のもとで,「速さを固定すれば,距離と時間は商一定」「距離を固定すれば,速さと時間は積一定」「時間を固定すれば,距離と速さは商一定」となります.
これは,複比例の基礎をなします.理想気体の状態方程式PV=nRTは,こういった比例・反比例の関係を組み合わせることで,導くことができます.

*1:この3つは順に,割合(比)の第1用法,第2用法,第3用法に対応づけられます.

*2:小学校の算数では,「常に同じ速さ」を仮定していますが,現実にはちょっと速くなったり遅くなったり,信号で立ち止まったりして,「常に同じ」とはいきません.その場合にどのようにして距離を求めるかというと,中学の「変化の割合」,高校の「微分積分」が関わってきます.関心のある小学生には,そういった用語か,用語を使わずに図かグラフか何かで,次の世界を見せていきたいものです.