わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

1950〜70年代の日本の数学教育改革

大学図書館で読み,Amazonマーケットプレイスで購入しました.ISBNが振られているものの,[http://www.amazon.co.jp/dp/4185642075]にアクセスすると,「この本は現在お取り扱いできません」と表示されます.

書名では明示されていませんが,この本のテーマは「数学教育の現代化」です.序章で,「新しい学習指導要領*1における“現代化”の後退」(p.9)を確認してから,数学教育の現代化は何だったのか,誰が関わったのか,誰にどのような影響を及ぼしたのか,などが記されています.
「誰が関わったのか」の記述が面白かったので,抜き出します.

日本の数学教育現代化の運動を推進している研究・実践グループには、大きく分けて二つの流れがある。そのうちの一つは、日本数学教育学会によって組織されている数学者・数学教育者が中心になって調査、研究し、会員である数学教師*2を通して普及するとともに、文部官僚や一部の数学者との協力を得て、数学教育の改革に努力している人たちによる流れである。もう一つは、数学教育協議会に所属している小・中・高・大の数学教師が、民間的な数学教育改造運動の重要課題として研究・実践し、会員や雑誌の読者、各種の研究会や講習会の参加者を通じて普及している流れである。おおまかな色分けをすれば、日本数学教育学会は与党的な立場で、数学教育協議会は野党的な立場で現代化の運動をすすめてきた、といえるかも知れない。
(pp.16-17)

与党が政策を決めて実行,野党はそれに反論,という構図が思い浮かびます.そうしたとき,与党を批判し,野党の肩を持ちたくなります.実際,著者は上のように日本数学教育学会(日数教)と数学教育協議会(数教協)を挙げた上で,野党に対応する数教協の運動に賛意を示しています.序章の中でそれは,現代化に関する日数教の考え方を整理した直後の「特徴的な点」(p.24)がすべて,批判の形となって現れているところに,見ることができます.
ページを進めると,『数学教育の現代化 (1966年)』を紹介し(p.100),「この約三二〇ページにわたる「諸外国における数学教育現代化の動向」は、日本の数学教育現代化のための日数教の研究のうちで最大の業績と評価してよいものであった」(p.102)と持ち上げたあと,「「第二部」にあたる「わが国の数学教育の現状と将来へのビジョン」は粗末なものであった」(p.104)と,こき下ろしています.
数教協そして遠山啓の活動について,著者による整理が「遠山啓と数学教育」(pp.169-182)として掲載されており,この初出は『教育科学・算数教育』の一九七九年一二月号とのことです.
そういった,数教協への肩入れには注意しつつも,1960〜70年代の日本の算数・数学教育の状況を見るのには,良い本だと感じました.内容の古さについては,The National Council of Teachers of Mathematics (NTCM)が1980年に出した勧告*3が反映されていないので,仕方ありません.

*1:昭和52年(1977年)に告示された小学校・中学校の学習指導要領を指します.

*2:算数を教える小学校の先生も「数学教師」に含まれているように思われます.

*3:http://www.nctm.org/standards/content.aspx?id=17278, http://www2.kobe-u.ac.jp/~trex/fme/index3.html