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4×3の文章題〜協働教育の可能性2

いきなりですが問題です.「4×3」の式で答えが求められる,算数の文章題を20個,作ってください.


記事1つ書くのと同じくらいの時間を要して,Togetterまとめを作りました.

本記事では,ツイートで十分に書けなかった,乗法の種類*1について,文献や過去記事の紹介と,小学生でも大人でも実行可能な活動の提案を試みます.


本題に入る前に,「協働」あるいは「協働教育」について,整理をしておきます.というのも,やや軽率に発したツイートが,当ブログを紹介いただく記事の中で,しっかりと取り上げられていたのでした.

大谷実さんの論文については、私は「比例について、算数と数学の接続を考えたい」という自分の目的意識にそって、必要なものをいただきました。Twitterのリプライによると、「協働」は今後takehikomさんが取り組みたいテーマのひとつであるようなので、特にそちらに意識が向かったということなのでしょう。
https://twitter.com/takehikom/status/537728398819201027

takehikomさんのブログの記事のご紹介・3 | TETRA'S MATH

当該ツイートより前に,「協働」をタイトルまたは本文に入れた記事を,いくつかリリースしてきました.

このうちの一つで,以下の文献にリンクしました.

当ブログでは記載してきませんでしたが,10月に学長ほか役員との面談に出席し,そこで協働教育について意見を聞かれました.その質疑応答を思い出しながら,「協働教育の可能性」を書きました.時期としては,以下の記事のリリース日より後,個人的にこの記事を読んだのより前になります.

協働教育については,大学でそれを推進するよりも,専門教育(各学生に専門知識を身につけさせること)にコストをかけるべきだという意見を,学内で聞きました.類似した批判が,先月下旬に出ています.

それとは別の問題意識として,協働(共同作業)をした経験だけが残り,知識・能力や,得たノウハウを問題解決に役立てようという意識が働かない人が出てくるのではないかとも考えます.川喜田二郎創造性とは何か(祥伝社新書213)』では「心情的陶酔」「お祭り気分」といった表現を用い,移動大学における失敗事例を紹介しています*3
さらに言うと,共同/協同/協働なんてのは昔からやっていたことであって---例えば研究室で学生で教員の共著論文を出すのだって「協働」なのです---,だとすると,「協働」はバズワードなのではないかという不安もあるのですが,学内の協働教育センターと関わっている者として,これは言いすぎだよなとも思っています.


さて,「4×3」の式で答えが求められる,算数の文章題を20個,できあがりましたでしょうか.5〜6個なら簡単に出てきても,そこからが難しかったと思います.ワークショップで「この町の良いところ」のお題のもと,ファシリテーターから「20個くらい,書いてくださいね」と言われましたが,私が書けたのはたしか12個でしたし,8人グループの中で20個に到達した人は,いなかったように記憶します.でも書けるだけ書くのが,その活動では大事なところです.
では控えめに,7個の文章題ができたとして,ここに手を加えていくことにします.その7個からできる「ペア」をすべて,作ってください.Q1からQ7まで番号を振ったなら,(Q1,Q2),(Q1,Q3),…,(Q6,Q7)と,合計21個のペアができます.
それを多くの人に見てもらって,そのペアが似たものどうしの問題だと思ったら○,似ていないと思ったら×をつけてもらってください.使えるお金があればここで,クラウドソーシング(crowdsourcing)を活用するのがいいと思います.
そうして,「似ている」と答えた割合を算出します.例えばそのパーセンテージが,次の表のようになったとします.

Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q6
Q2 69
Q3 34 81
Q4 60 64 53
Q5 28 61 21 47
Q6 63 12 76 54 56
Q7 68 38 88 92 68 46

この数値の出典は,以下のページです.

次に,階層的クラスター分析を行い,デンドログラムと呼ばれる図を作成します.私はWindows版のRのGUIを開き,以下のコマンドを順に投入しました.

tab <- matrix(c(89,90,67,46,50, 57,70,80,85,90, 80,90,35,40,50, 40,60,50,45,55, 78,85,45,55,60, 55,65,80,75,85, 90,85,88,92,95), 7, 5, byrow = TRUE)
colnames(tab) <- c("p1", "p2", "p3", "p4", "p5")
rownames(tab) <- c("Q1", "Q2", "Q3", "Q4", "Q5", "Q6", "Q7")
tab.d <- dist(tab)
tab.hc <- hclust(tab.d, method = "ward.D")
plot(tab.hc, hang = -1)

画像が出たら右クリックで保存します.IrfanViewで少し整形すると,次の画像となります.

これがデンドログラムです.トーナメント表にも似ていますが,違いがあります.トーナメント表は1回戦,2回戦,…で線を揃えますが,載せたデンドログラムでは,縦線はどれも揃っていません.どこで要素どうしがくっつき,新たなクラスター(まとまり)が形成されるのかは,数値化され,より大きなクラスターの形成に使用されているからです.上の図の場合,左で結合されているものほど,距離が近く,似たもの度合いが高いと言えます.
しかし,トーナメント表と同様の使い方もできます.1回戦で敗れたチームをすべて見つけるには,その表の全体を通るような直線を,1回戦の対決より前のところで引きます.そして交点をもとに,2回戦に進めなかったチームを,もれなく求められます.デンドログラムに勝ち負けはありませんが,交差するような線を引けば,その箇所に応じて,意味を与えることができます.

赤の線により,{Q7},{Q2,Q6},{Q4},{Q1},{Q3,Q5}という5つからなるクラスターを得ます.青の線だと,{Q7,Q2,Q6},{Q4,Q1,Q3,Q5}の2つです.
線を引くことは,クラスター分割をおこなうことに対応します.あとは適当な線引き,もしくは分割の仕方を見つけて,クラスターの各要素すなわち文章題を読み,このグループはこれこれについての問題だ,これはなるほど他のどれとも違ってそうだな,と,クラスターごとに精査するなり,それぞれに名称をつけるなりすればいいのです.


上記は,フリーソフトウェアを活用した教育への提案ですが,計算機に頼らなくても,「4×3」を題材に,小学校向けの協働教育は可能です.
例えば6年生です.4人を並べたとき,先頭の2人の並び方が4×3=12通りで求められるのは,学校図書の教科書に書かれています*4.そこで,この順列のかけ算を学習した後に,子どもたちに,2年生から今までの算数を振り返って,「4×3」の式で答えが求められる,算数の文章題を書いてもらいましょう.あ,付せんと模造紙,ペンの手配を忘れてはいけません.1枚の付せんに1つの文章題を書かせます.出つくしたらペンを置き,これは同じ,これは違うと,手で貼り替えながら分類していきます.実施の前に,数名ごとの班を作っておき,分類を班単位でさせれば,グループワークらしさが出てきます.
書き出しのはじめは各児童が黙々と行いますが,途中から先生あるいはファシリテーターの指示で,他の子のを見て参考にしてもよいとします.分類作業は,共同作業の大事なところですので,わいわいがやがや進行します.その中で,「これは3×4じゃないか」「4×3にも3×4にもなるよ」なんて会話があったってかまいません.
分類結果を模造紙に貼り付けて,黒板に掲示し,ここは何でと説明すれば,まちづくりワークショップを算数に適用した事例となり,子どもたち自身が(そして先生も)「かけ算の意味」あるいは「乗法が用いられる場合」を振り返ることも,可能となる次第です.


上記で記事が終わったら,「心情的陶酔」になってしまいそうなので,クールダウンを兼ねて,これまで書いたり読んだりしてきた,「かけ算の意味の分類」について引いておきます.


Q: この表が最新の分類?

A: いえ.より新しい分類は,米国Common Core State Standards for Mathematicsにあります(略).
そのほか,黎(2007)の博士論文では,「乗法課程的概念結構」という節の中で,Greer (1992, 1994)を最後の項目で取り上げています.比較表を見ると,他文献と比べて最も分類が細かくなっており,Greerの分類は古びれていないと思われます.

「×」から学んだこと 14.02


Greerの分類と,一つだけ違います.それは,単位の変換を,「量×量」に入れているところです.インチをセンチメートルにするといった,物理量の変換のほか,円をドルやユーロや他の外貨といった,通貨の両替も,ここに含まれます.そして,単位の変換のかけ算「a×b=x」で出てくるa,b,xはみな異なる性質の値です.
単位の変換には他にない面白い特性があって,レートbに対して逆数b'に意味があります.「1ドルが何円か」の反対(乗法的な逆元)により,「1円が何ドルか」を求めることができます.そうしたとき,「x÷b=a」は「x×b'=a」と等価です.あるレートで割るのは,そのレートの逆数をかけるのと同じということです.

積・倍・積〜新たなかけ算のサンドイッチ