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長方形でもひし形でもない平行四辺形は,線対称でない

 報告者は関根哲宏氏です.6年生の授業です.正方形・長方形・平行四辺形・ひし形・台形のそれぞれについて,点対称か,線対称か,そして線対称の場合には対称の軸の数が,表になっています.なお「対称の軸」は,「点対称」「線対称」「対称の中心」と並んで,現行の小学校学習指導要領のもとでは算数の第6学年の〔用語・記号〕に含まれています*1
 表を見て,えっと思いました.というのも,線対称な台形が存在するのです.具体的には等脚台形です.

 ということで,表の○は,正方形をはじめ各行の図形について常に成り立つ(点対称または線対称である)ことを意味し,×は,その図形では成り立たない場合があると読むのが良さそうです.
 自分なりに,作図してみました.長方形の対称の軸は,「向かい合った2つの辺それぞれの中点を結んだ直線」です.2本,あります.

 次に,ひし形の対称の軸は,「対角線」です.こちらも2本,あります.

 正方形は,「長方形の対称の軸とひし形の対称の軸の両方」です.合わせて4本です.

 再掲となりますが,等脚台形の対称の軸は,「平行な2つの辺それぞれの中点を結んだ直線」です.これは1本だけです.

 あともう一つ,凧形も線対称です.対称の軸は,「隣り合って長さが等しい2つの辺の交点(頂点)それぞれを結んだ直線」となります.こちらも1本だけです.

 「×は,その図形では成り立たない場合がある」と書きましたが,それでは平行四辺形について,線対称なものはあるのでしょうか.

 「長方形でもひし形でもない平行四辺形は,線対称でない」が証明できそうです.
 対称の軸の性質として,「平面図形が線対称であるとき,対応する点を結ぶ線分は,全て折り目にした直線によって垂直に二等分される.この直線を対称の軸という.」を挙げることができます.これは,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.293を改変したものです.
 1個の線対称な多角形に限定---曲線を含む図形や,複数の閉領域を1個の図形と見なすことを,除外しています---して,検討することで,その多角形のある辺(辺の両端となる頂点を除く)が,対称の軸と交点を持つとき,「その辺と対称の軸は直交する」と言えます.対称の軸が,多角形の頂点を通ることもあります.頂点を通るときには,対称の軸はその頂点の角の二等分線となり,辺と交わるときには,交点の近くの線分(辺の一部)が180°の角を構成していると見なして,その二等分線となっています.
 それでは証明です.背理法を使用します.「線分XY」と「直線XY」を区別し,「XY」とは書かないようにしているため,字数は多くなります.
 長方形でもひし形でもない平行四辺形ABCDについて,線対称であると仮定します.
 そして一般性を失うことなく,対称の軸ℓは線分ABと交わるものとします.ここには2つの注釈が必要です.まず,多角形が線対称であるとき,対称の軸が多角形のどの辺とも交わらずまたどの頂点も通らない,とすることはできません.次に,ℓは平行四辺形のどの頂点も通りません.もしいずれかを通るとき,線分AB,線分BC,線分CD,線分DAの長さはみな等しく,四角形ABCDはひし形になります.
 ℓにより,点Aと,残りの3点B,C,Dのいずれが対応するかで,場合分けします.
 (i) ℓにより,点Aと点Bが対応する:ですが∠A≠∠Bのため,そのようなℓは対称の軸にはなりません*2
 (ii) ℓにより,点Aと点Cが対応する:このときℓは,線分ACの垂直二等分線となります.そして,ℓと線分ABは直交しません(「ℓ⊥直線AB」「ℓ⊥直線AC」「A,B,Cは同一直線上にない」を満たす直線ℓおよび3点A,B,Cの組み合わせは存在しません).ℓと線分ABの交点をEとすると,場合分けより前に書いた通り,点Eは点A,点Bのいずれでもなく,線分ABの内部の点となります.「多角形の辺(辺の両端となる頂点を除く)が,対称の軸と交点を持つ」にもかかわわらず,「その辺と対称の軸は直交する」を満たしません.したがって,ℓは対称の軸ではありません.
 (iii) ℓにより,点Aと点Dが対応する:ですが∠A≠∠Dのため,そのようなℓは対称の軸にはなりません.
 以上より,いずれの場合も,ℓが平行四辺形ABCDの対称の軸であることと矛盾します.(証明終)
 四角形の包含関係として,台形⊂平行四辺形,平行四辺形⊂長方形⊂正方形,平行四辺形⊂ひし形⊂正方形はよく知られていますが,対称の軸の存在(構成の関連性)に関しては,凧形<ひし形<正方形,等脚台形<長方形<正方形という2種類に分けられます.
 凧形が,四角形の包含関係に陽に現れない一方で,対称の軸に着目した関係だと平行四辺形が出現しない,と言うこともできそうです.

*1:https://w3id.org/jp-cos/8250263600000000

*2:小学校だと…実践報告に書かれた,「絶対に重ならない」が関連します.より厳密に証明するなら,平行四辺形の周および内部の,点A,点Bの近傍でそれぞれ三角形を考え,対称の軸に関して対応しない領域があるのを示すのが,一つの方法です.