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大学生 学びのハンドブック

4月は新入生のシーズンです.また3か月ほど,満員のバスに悩まされます.それと,2年に1回の基礎教養セミナー(1年ゼミ)も回ってきます.
ということで,1年ゼミ用の書籍を選定中です.昨年末に『「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール (ブルーバックス)』を読み,図例豊富でいいなあと思ったものです.あと,『デジタルネイティブ―次代を変える若者たちの肖像 (生活人新書)』というのも,読んでもらって,意見や経験を聞かせてほしいとか考えたりします.
そうだ,大学での学び方の本で新しいのがないか,見ておきましょう.生協で…発見.

大学生 学びのハンドブック

大学生 学びのハンドブック

他の多くの学生向け学び方本と比べて,良いところといえば,上から目線の心構えに終始することなく,学生が読んで「こうやればいいのか」と分かるよう,プロセス(過程)に配慮しているところでしょう.講義のテイクノート(pp.14-19)についても,先生の話が進むにつれてどんどん充実していくのが確認できます.
成功例・失敗例(pp.47-51, pp.74-79, p.114)も興味深いです.レポート作成の様子では,マメ子さんが成功,ノリ太くんは私の目から見てもことごとく失敗ですが,自由発表の準備については,ノリ太くんが主人公となり,失敗役はマメ子さんが引き受けています.
個人的な経験でも,1年ゼミの自由発表で,面白いプレゼンというのは,答案のとりまとめ能力とはかなり独立しているように見えます*1.これは,大学1年でのゼミでの自由発表では,緻密さよりも,題材選定が,成否の大きなファクターを占めているからかもしれません*2
ただ,プロセス重視の本と上で述べたものの,まだ不十分に感じます.まずは労力の配分です.
レポート答案を先生が読むとか,プレゼンをゼミの中で聞くとかいう時間は,学生一人につき,いずれも数分に過ぎません.それに対して各学生は,1件のレポート作成あるいはプレゼン準備に,何十倍もの時間をかけることになります.作成・準備において,どんな作業に何時間かければ,だれもが納得のいくソリューションが得られるのか…というのは言えないにしても,着想の“展開”のところが本書ではややあっさりしていて,その作業に力を注げば,答案執筆にしても,配布資料・PowerPointスライドの作成にしても,手間が格段に減ることは,書かれてあってもおかしくないかなと思いました.
用語について,「推こう」(p.46,あともう1箇所は失念)が気になりました.「推敲」として,中学の漢文で教わらなかったですかね.あるいは高校の国語とか.何に引っかかったのかというと,次の2つの文を挙げてみます.

  • よく推こうしてください.
  • よく推敲してください.

大学の先生が,レポートに赤書きして返すか,メールで学生に連絡するというとき,上の2つの文のどちらを選ぶかです.前者がマジョリティなわけがありません.目分量ですが95%が「推敲」,1%が学生に配慮して「推こう」,4%は「推敲」という言葉が分かってくれないんじゃないかと別の表現にする*3,といったところでしょうか.
先生が何気なく「推敲」と書いて*4,学生が読めなかったら,コミュニケーション失敗です.新入生向けの本をうたうのであれば,例えば「推敲」と書いてルビを振るとはいかなかったものでしょうか*5
インターネットの情報の取り扱いは,悩ましいですね.p.48のノリ太くんの失敗へのコメント,『インターネットは情報が整理されておらず,信頼性の低い情報もまじっているので,本で知識を得る方が近道です』には同意しますが,本のどこにもWikipediaが見られなかったのはどうかなと思います.この本が長く読まれ,一方,Wikipediaはなくなるだとか名称変更する可能性があるのかなと考えたりもしましたが,しかしそうだと,CiNiiだって同様のリスクがあるわけです.
それと,p.61の,参考文献においてURLを書く場合はアクセス日を明示することについて,自分の課するレポートにおいては*6,そこまでしてもメリットないなあと思っています.というのは,文中にあるとおり『2008年8月6日閲覧』と書いたところで,万一そのコンテンツがその日に修正をなされていたら,修正前のを閲覧したのか,修正後なのか,判別できないからです.まあ,Subversionに毒された「考えすぎ」なのは認めますが.
はじめの話に戻すと,この本は,新入生必読ではないにしても,ゼミ室の本棚の,目立つところに置いておき,興味を持った学生が読んでくれるといいなといったくらいの良書です.

*1:1年ゼミの期間でも,大学で学ぶ基礎力の十分な人・不十分な人というのはある程度見分けられますが,1年後期のプログラミング科目のレポートに目を通したとき,学生の顔を思い出しながら,再確認しています.

*2:それに対して,学科の卒研発表においては,研究の課題・題材よりも,卒研として自分が実施したこと,そして10分間という時間の制約に対する発表の準備,要は緻密さが,重要だなと常々感じています.

*3:例えば「表現一つ一つについて,それでいいか,よく確認してください」.長いなあ.

*4:教員は論文にせよ授業準備にせよ,当たり前のように「推敲」して,自分の書いた文章を完成度を高めています.

*5:「推こう」としたのは,「敲」が常用外という,いわば執筆上の制約と推測します.もしかしたら著者は「推敲」と書いて,編集時に「推こう」になり著者も黙認したのかもしれません.しかしここは,出版の伝統と,実用とを秤にかけてほしかったものです.

*6:こんな制限を置くのは,学会原稿執筆の際にアクセス日明記のルールがあれば,従っているからです.