また,杉山は,計算法則を一般的には加法についての交換法則,結合法則,乗法についての交換法則,結合法則,分配法則,四則の相互関係,代数的構造を考えるときの公理となるもの(閉包性,加法の単位元,逆元の存在,乗法についての単位元,逆元の存在など)であるとしている。そして,小学校の算数で法則を活用することを,次のように述べている。
「小学校の算数で法則を活用することを考えようとするならば,その法則は加法,乗法の意味に直接つながったものの方がよい。」(p.275)
〔加法についての結合法則〕a+(b+c)=(a+b)+c「加法では,たす数を大きくした分だけ,その和は大きくなる。」
〔乗法についての結合法則〕a×(b×c)=(a×b)×c「かけ算では,かける数を2倍,3倍,…すると,積も2倍,3倍,…となる。」
(中村享史「小学校算数科における乗法・除法の計算法則の指導」, 『続・新しい算数数学教育の実践をめざして―杉山吉茂先生喜寿記念論文集』p.52)
本題に入る前にいくつか.「(p.275)」は,杉山吉茂「公理的方法に基づく算数・数学の学習指導」(1986)からで,復刻版が2010年に刊行されています.上記の執筆者・中村享史氏は,『数学教育学研究ハンドブック』第3章 教材論 §2 演算の意味・手続き(pp.73-82)も執筆しています.演算の意味については,ここでいくつか書き出していますが,そのセクションを読み直してみると,計算法則に関する,上の引用についても,a+(b+c)=(a+b)+c,a×(b×c)=(a×b)×cの式はないものの,同様のことが記されていました.
それで本題なのですが,最初に「かけ算では,かける数を2倍,3倍,…すると,積も2倍,3倍,…となる。」を読んだとき,何だこれ,比例の話が結合法則なのか,と勘違いしてしまいました.読み直して,意図を理解できました.
式を用いないこの文は,「a×b=p」という式を起点とするのがよさそうです.aはかけられる数,bはかける数,そしてpは積です.
次に,「a×(b×c)=p'」と書きます.この左辺が,「かける数を2倍,3倍,…する」に対応します.
a×(b×c)=(a×b)×cを所与*1とすると,p'=p×cという式を得ます.そしてこれが,「積も2倍,3倍,…となる」を表した関係式となるわけです.
別の見方をすると,a×(b×c)=(a×b)×cについて,「2倍,3倍,…」は両辺とも「×c」を指します.しかし違いもあって,左辺では,×cの対象は,かける数すなわちbであり,右辺では,積のa×bです.倍指向の結合法則,と呼びたいところです.
結合法則は自分自身,代数系の入門書で理解し,またプログラミングだったかアルゴリズムだったかの本の中で,文字列の連接は,空文字列を単位元として,モノイドになると学習しました.
「かけ算の順序」論争を通じては,一つは,交換法則と合わせて「演算の順序は問わない」こと,もう一つは,3口のかけ算の文章題で,式の意味を考えるとa×(b×c),(a×b)×cともに意味があり(しかし例えば(b×c)×aはおかしい),それぞれの計算結果が等しいことを確認する,という授業例を見てきました.
「かけ算では,かける数を2倍,3倍,…すると,積も2倍,3倍,…となる。」が目で見て分かる,日常生活の例を,これから探してみるとします.
*1:「すでに証明された事柄」とするのでも,「これから証明をする命題」とするのでも,かまいません.