わさっきhb

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6人で5個ふたたび

いきなりですが問題です.

私の家族は,おじいさん,おばあさん,お父さん,お母さん,妹と私の6人家族です.ケーキを5個もらいました.このケーキをあなたは,どのように分けてあげたいですか.また,そう考えたわけもかきましょう.

元ネタは,以下の本のp.92です.箱で囲まれ,「図2-2-1 ケーキの問題(分配のカテゴリーの問題)」という図見出しがついています.

算数・数学教育と多様な価値観

算数・数学教育と多様な価値観

博士論文をもとに公刊した,とのことで,少し調べると,http://ci.nii.ac.jp/naid/500000961214http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00038555が見つかり,本文のPDFにもアクセスできました.句読点のカンマピリオドは原文ママです.ページ番号は本からとします.
この問題は,昨年,当ブログで取り上げていました.

そこでは問題文が「ケーキが5個あります。おじいちゃんとおばあちゃん,おとうさんとおかあさん,妹と私の6人で分けます。1人どのくらい食べられるでしょう」となっています.冒頭の出題では,より能動的に*1,理由づけをして「分ける方法」を提示することが,期待されています.
p.91では「池田(2007)」と記載し,p.92では,6つの分け方を紹介しています.

(1) 1人:\frac{5}{6}
(2) 妹と私:\frac{3}{2}個 残り4人:\frac{1}{2}
(3) おとうさん:\frac{3}{2}個 妹と私:1個 残り3人:\frac{1}{2}
(4) 妹と私:\frac{1}{2}個 残り4人:1個
(5) 1個ケーキを買ってきて1人1個
(6) 2個は近所に分けて1人\frac{1}{2}

うむ〜,元文献の引き写しかと思いながら,読んでいくと,20ページほど先に,元文献にない分け方と理由づけを,目にしました(pp.117-118)

(略)図2-2-1のケーキの問題の場合には,祖父・祖母のことを思う考えが表れることが想定される.そして,その価値観に基づいて,数学的モデルが構成される.
例えば,「おじいさん,おばあさんは甘い物をひかえているので,\frac12個ずつあげる.他の人は1個ずつあげる.1×4+\frac12×2=5」などである.この場合には,祖父・祖母に優しくする社会的価値観は,仮定をおいて考える時の条件を果たしていることになるが,この場合の仮定は,「祖父・祖母のことを思いやって少なくあげると言う条件を入れるとすると」という意味になる.

人を考慮しないなら,1×4+\frac12×2=5の式に対応づけられるこの分け方は,先に記した6つの分け方のうち(4)と一致します.ですが(4)で,\frac{1}{2}個すなわち他の者(そして平均の\frac{5}{6}個)よりも少ない取り分となるのは,妹と私であり,「祖父・祖母に優しくする社会的価値観」だと祖父母になる,という違いがあります.
ここは1951年生まれという著者の人生経験が反映された,と見るべきでしょうか.実際に授業で(5年で,分数×整数や異分母分数の和を学んだあとに)出題し,(1)から(6)までの考えが出揃ってから,おじいさんおばあさん\frac12個ずつ,他は1個ずつを先生の側から提示して,「おじいさん,おばあさんは甘い物をひかえている」という解釈を,クラスの誰かがしてくれるのかというと,難しいかもなあと思ったりします.


本文中に何度も「島田(1977)」と出てくるので,20代から本か論文を出していて,後年に学位を得るため成果を取りまとめたのか,と思いながら読んでいき,asin:B000J8XH6Wを見つけたところで,下の名前が違うことに気づきました.『算数・数学科のオープンエンドアプローチ』の著者名は島田茂となっており,参考文献には,この氏名による1942年の文献も,記載されていました.

*1:ただし,「あなた」が,「私の家族」の外の者であると読めるのは,気になります.「おじいさん,おばあさん,お父さん,お母さん,妹とあなたの6人家族で,ケーキを5個もらいました.このケーキをあなたは,どのように分けてあげたいですか.また,そう考えたわけもかきましょう」とすれば,あなたは家族の一員であり,当事者性が高まるように思えるのですが.